爽快で軽快なアメリカンロック TOM PETTY & THE HEARTBREAKERS - LET ME UP (I’VE HAD ENOUGH)
前作SOUTHERN ACCENTS(サザン・アクセンツ)からの歩み
1985年リリースの6thアルバム、SOUTHERN ACCENTS(サザン・アクセンツ)はビルボード誌アルバムチャートで第7位、アメリカでの売り上げは100万枚を記録しました。
サザンロックの基本を抑えながらも、ユーリズミックスのデイヴ・スチュアートをプロデュースに招き、数曲で共作するなど、ポップセンスを取り入れたアルバムはTOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ)の新たな魅力を増し加えるものとなっています。
サザン・アクセンツ発表後のツアーの中からのライヴ音源は、1985年リリースのライヴアルバム、Pack Up the Plantation: Live!という形でリリースされた。
そこからは、So You Want to Be a Rock ‘n’ Roll Starがシングルカットされ、ビルボード誌Mainstream Rockチャートでは第9位を記録。
2ndシングルとなったのは、STEVIE NICKS(スティーヴィー・ニックス)とのデュエット、Needles and Pinsで、シングルチャート第37位、Mainstream Rockチャートでは第17位を記録している。
また、1985年のファーム・エイドに参加。
この企画は、経営難に苦しむアメリカ合衆国の小規模農場や個人経営の農家に対しての基金を集める目的でウィリー・ネルソン、ジョン・メレンキャンプ、そしてニール・ヤングなどによって行なわれたコンサートだ。
ここでトムらは、Bob Dylan(ボブ・ディラン)と共演。
それがきっかけとなり、両者は急接近。
ボブ・ディランのアルバムに参加したり、アムネスティ・コンサートでも再び共演を果たしている。
また1986年、ニール・ヤング夫妻の提唱で開催されたチャリティコンサートにも参加。
このコンサートは身体障害の子供たちの教育施設を充実させるための資金作りを目的としたもので、ブルース・スプリングスティーンやドン・ヘンリーなどと共に出演している。
このように、積極的に慈善活動にも参加しながら、同時にライヴアーティストとしてもスキルアップをしていき、ついに前作から2年のインターバルを経て、アルバムを製作にかかる。
今回はトム・ペティと、ギタリストであり優れたコンポーザーでもあるマイク・キャンベルの二人によるプロデュースだ。
この、バンドを知り尽くした二人により、アメリカンロックの原点に立ち返ったようなアルバムとなった。
もちろん南部のロックサウンドや伝統的な音楽も織り交ぜつつも、前作で見せたような小細工のない、シンプルなロックンロールアルバムだ。
今日は1987年リリースの、TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ)の7thスタジオアルバム、LET ME UP (I’VE HAD ENOUGH)(レット・ミー・アップ)をご紹介させていただきます。
LET ME UP (I’VE HAD ENOUGH)(レット・ミー・アップ)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、アルバムの先行シングル、JAMMIN’ ME(ジャミン・ミー)。
新作発表の報を受けて、先行シングルの到着を待ったが、この曲を聴いてアルバムの即買いを決定してしまった。
この曲は、トムとマイク、そして、数々の共演を果たしたボブ・ディランとの共作である。
もう、非常にノリの良いシンプルなロックンロールである。
泥臭いエネルギーにあふれたトムのヴォーカルがはまっています。
マイクのギターリフもシンプルで、最小限のものであるし、ドラム&ベースも手堅い演奏を聴かせてくれます。
そこにささやかにキーボードが楽曲を飾っています。
こんなシンプルな構成ではありますが、ロックンロールの魅力をたっぷり封じ込めた楽曲になっています。
この曲はビルボード誌シングルチャートで、第18位を記録。
そして同誌Mainstream Rockチャートではなんと4週連続のNo.1を記録する大ヒットとなった。
2曲目はRUNAWAY TRAINS(ランナウェイ・トレインズ)。
哀愁味を感じさせる楽曲だが、サビはキャッチーでトムのヴォーカルが温かく響いている。
イントロではキラリと光るギターのハーモニクス音が美しい。
全体としてはとくに目新しいことをしているわけではない。
しかし、なにか温かい雰囲気があふれているのである。
聴いてて心地よくなる、トムペティ&ザ・ハートブレーカーズらしいロックである。
3曲目はTHE DAMAGE YOU’VE DONE(ザ・ダメージ・ユーヴ・ダン)。
このミドルテンポの楽曲も、とても快適な聴こえ方がする。
トムの低音ヴォーカルがメインとなるが、そこに加わるコーラスもとてもいい。
間奏ではハモンドっぽいオルガンサウンドも聴こえる。
前作より楽器一つ一つがクリアに聴こえて来る。
プロデュースの方法にもよるのかと思いますが、バンドメンバー一人ひとりの音がはっきり聞こえてくるのはとてもいいです。
4曲目はIT’LL ALL WORK OUT(イットゥル・オール・ワーク・アウト)。
イントロや曲中でマイクが奏でているのは琴だ。
才能ある人はやはり何をやらせても上手いです。
1986年に来日コンサートを開いてますが、その時持ち帰ったのかもしれません。
琴の音を全体でうまくきらびやかせながら、郷愁感あふれるトムのヴォーカルが優しく歌い上げています。
基本はカントリーソングっぽい作りだが、ギターアルペジオの変わりに琴を使ってみた、という感じの楽曲になってます。
この琴の響きはアメリカンなカントリーとも相性よく用いられて、とても素敵です。
5曲目はMY LIFE / YOUR WORLD(マイ・ライフ・ユア・ワールド)。
イントロではこちらもカントリーっぽい雰囲気の、ドブロギターのようなストロークが用いられている。
そのパートが終わると、重いベースライン主導のルーズなロックが聴けます。
このゆったりソフトな感じで歌うトムのヴォーカルも、非常にいいですね。
楽曲自体も懐が深く、エレキギターのソロも落ち着いたものとなってます。
間奏で聴けるささやかなキーボードソロも、味わいがあってとても良いです。
6曲目はTHINK ABOUT ME(シンク・アバウト・ミー)。
なかなかのアップテンポの楽曲で、軽快で爽快なロックンロールを披露しています。
この古っぽいロックサウンドを、80年代にクリアによみがえらせているのは素晴らしいですね。
結局、みんなノリの良い曲を好きなんです。
そう考えると、ロックンロールを発明した人ってすごいです。
1950年代から、人々を楽しませてきた音楽、それが基本となり後世まで受け継がれていっているわけですからね。
トムもその継承者の一人として、バンドと共に僕たちを楽しませてくれています。
7曲目はALL MIXED UP(オール・ミックスト・アップ)。
これも古き良いアメリカって感じをたっぷり含んだルーズなロックソングだ。
イントロで少しお遊びを入れた後、ゆったりと楽曲は進んでいく。
これも、聴いてて非常に心地よい。
取り立てて演奏にハイテクなスキルが盛り込まれているわけではないのに、すごくクオリティが高く聴こえるのは、やはり楽器の一つ一つがはっきり聴こえるようにミキシングされているからではないだろうか。
とても心優しくなれる楽曲です。
8曲目はA SELF-MADE MAN(セルフ・メイド・マン)。
これは軽快なロックンロールです。
トムの低音ヴォーカルの魅力があふれています。
サビではトムのヴォーカルに絡まる、コーラスが美しいです。
とても耳障りのいい楽曲です。
9曲目はAIN’T LOVE STRANGE(エイント・ラヴ・ストレンジ)。
続く曲も軽快なロックンロールサウンドとなっています。
トムの声はヘタウマとも称されることがありますが、僕はそうは思いません。
非常に個性的な声ではありますが、とても味のある、人間味豊かな声だと思ってます。
もちろん最初はとっつきにきかったのを覚えてますが、いったん馴染んだらはまってしまう、癖になる声だと思います。
この軽快な、どっちかというと普通の曲も、トムの声で個性豊かな楽曲へと速変わりです。
これも一種の才能でしょう。
10曲目はHOW MANY MORE DAYS(ハウ・メニー・モア・デイズ)。
アコギのストロークが爽快なカントリー系のロックンロールだ。
間奏のピアノも軽快さを演出してます。
ギターソロもカントリータッチで軽快感を出してます。
アルバムラストはLET ME UP (I’VE HAD ENOUGH)(レット・ミー・アップ)。
アルバムタイトルソングが最後に配置されてます。
ロックンロールの典型的なリフで始まる、やはりロックバンドサウンドだ。
トムの「もうたくさんだ」という荒れたヴォーカルがみなぎっている。
アルバムラストまで結構元気いっぱいな楽曲が揃っているのに驚かされる。
前作よりも、ロックンロールしている感が半端ありません。
まとめとおすすめポイント
1987年リリースの、TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ)の7thスタジオアルバム、LET ME UP (I’VE HAD ENOUGH)(レット・ミー・アップ)はビルボード誌アルバムチャート第20位、アメリカでのセールスは100万枚を記録しました。
さすがにアメリカンロックの南部代表として、ヒット作品にすることに成功しています。
今回はトムとマイクの共同プロデュースが試みられ、一番バンドを知り尽くした者たちによるセルフプロデュースという形になっています。
やはり、今回は前作と違って、非常にシンプルなロックンロールが展開されていることに注目できます。
今回は少し前のボブ・ディランとの共演から始まって、やはり彼らのルーツである50年代60年代のロックンロールに改めて目を向けたのではないかと思われます。
過剰なアレンジのなかった先人たちの音楽は、純粋に音そのものを楽しめる媒体だったに違いありません。
その出会いに再び注目し、彼らの音楽に消化吸収し、再現を試みたように伺えます。
結果として出来上がったのが、このシンプルだが、ロック本来の持つピュアなサウンドではないでしょうか。
ただ、そうした基本のロックンロールにとどまることはしていません。
クレジットを見ると、マイクは各種ギターの演奏だけでなく、琴、ダルシマー、マンドリン、ウクレレなどにも挑戦し、アルバムの全体に散りばめています。
もはや、どれがどの楽器の音か全てを言い当てることは僕には出来ませんが、少なくとも、そうした民族楽器的な音がバンドサウンドの中で聴こえるのは理解できます。
サザンロックにとどまらず、そうした民族楽器を取り入れることで、一層アーシーなロックを聞かせてくれていると感じられます。
加えて特筆すべきはそうした楽器一つ一つが埋もれることなくクリアに聴こえるところも、このアルバムの良い点だと思えます。
つまり、過剰なアレンジで音を重ねすぎることなく、シンプルな楽器の生の音で勝負しているということでしょう。
その辺が、クリアで聴き心地のよいアメリカンロックを作り上げるのに貢献していると思います。
楽器本来の音の聴こえる、軽快なアメリカンロックを楽しみたい人には間違いなくお勧めのアルバムだといえるでしょう。
チャート、セールス資料
1987年リリース
アーティスト:TOM PETTY AND THE HEARTBREAKERS(トム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ)
7thアルバム、LET ME UP (I’VE HAD ENOUGH)(レット・ミー・アップ)
ビルボード誌アルバムチャート第20位 アメリカで100万枚のセールス
1stシングル JAMMIN’ ME(ジャミン・ミー) ビルボード誌シングルチャート第18位、同誌Mainstream Rockチャート4週連続No.1
2ndシングル ALL MIXED UP(オール・ミックスト・アップ) Mainstream Rockチャート第19位
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