人気絶頂デュラン・デュランから派生したスーパーグループ THE POWER STATION(パワー・ステーション)- THE POWER STATION(ザ・パワー・ステーション)
デュラン・デュランからのサイドプロジェクト始動
1983年リリースの、DURAN DURAN(デュラン・デュラン)の3rdアルバム、SEVEN AND THE RAGGED TIGER(セヴン&ザ・ラグド・タイガー)は英米共にアルバムチャートでNo.1を記録し、名実共に、世界のトップスターバンドの一つとしての地位を確立しました。
もちろん、ルックスの良い彼らに1番注目していたのは世界中の女の子たちがメインだったのは想像に難くありません。
僕も気に入ってはいましたが、そういったアイドル的な扱いゆえに、ファンと公言するのはちょっとはばかれていたものですw
アルバムのヒットを受けて、バンドはアメリカを含むワールドツアーを敢行します。
その様子はドキュメンタリーとしてSing Blue Silverというタイトルで映像化されます。
また、コンサートの様子を収めたビデオはArena (An Absurd Notion)(アリーナ)というタイトルで映像化されました。
加えて、その様子はライヴアルバムとして編集され、1984年にArena(アリーナ)というタイトルでリリースされています。
このキャリア初のライヴアルバムは、ビルボード誌アルバムチャートで第4位、アメリカで200万枚を売上げています。
このアルバムには1曲だけスタジオ録音された曲が含まれており、その曲、The Wild Boys(ザ・ワイルド・ボーイズ)はシングルとしてリリース。
ビルボード誌シングルチャートで4週連続第2位を記録しています。(ちなみにNo.1を妨げたのは、ホール&オーツのアウト・オブ・タッチとマドンナのライク・ア・ヴァージンでした。)
1984年の終わりには、あのアフリカ救済プロジェクトのBand Aid(バンド・エイド)にデュラン・デュランの5人全員で参加。
Simon Le Bon(サイモン・ル・ボン)は、Do They Know It’s Christmas?(ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス)の中でソロパートを歌うなど、一流のトップスターの仲間入りを果たしています。
こんな人気絶頂のデュラン・デュランでしたが、3rdアルバムリリースとそれに伴う過酷なツアーが終わると、そのスケジュールの空きを使って二つのサイドプロジェクトを立ち上げます。
その一つは、サイモン、Nick Rhodes(ニック・ローズ)、Roger Taylor(ロジャー・テイラー)の3人によるArcadia(アーケイディア)。
そしてもう一つは、今回紹介する、Andy Taylor(アンディ・テイラー)とJohn Taylor(ジョン・テイラー)によるTHE POWER STATION(パワー・ステーション)ということになります。
当時は、超人気のバンドが分裂、ということで、かなりセンセーショナルな話題を振りまいていましたね。
パワー・ステーションの結成のきっかけは、ジョンが当時の恋人、モデル兼歌手志望のべべ・ビュエルのために数名の友達とバックバンドを組んだ一度きりの集まりだったようです。
彼女は、T. Rex(T・レックス)のGet It On(ゲット・イット・オン)を歌いたがっていて、その演奏をしてますが、そんなきまぐれなセッションが始まりとなりました。
そのバンドには、ジョンと共にアンディがいましたが、二人とも普段のデュラン・デュランのシンセポップサウンドに満足していませんでした。
むしろ、レッド・ツェッペリンのようなロックンロールを望んでいたのです。
恐らく、そのゲット・イット・オンのセッションでアンディは特に思う存分エレキギターをかきならしたのでしょう。
それは、実際に一つのプロジェクトとして動き出す大きなきっかけになったと思われます。
そしてアルバムを1枚作る流れになって行きますが、メンバーとして集められたのは、R&B、ファンクバンドの元Chic(シック)のドラマー、Tony Thompson(トニー・トンプソン)と、同じく元シックのベーシスト、Bernard Edwards(バーナード・エドワーズ)の二人です。
シックとのつながりは、あのTHE REFLEX( ザ・リフレックス)を元シックのNile Rodgers(ナイル・ロジャース)にリミックスしてもらったのがきっかけのようです。
ただナイル自身はすでに売れっ子プロデューサーになっていたのでこのプロジェクトには参加できず、元シックの二人が推されたようです。
なお、一応ジョンがベーシストとして既にいるので、バーナード・エドワーズはプロデューサーとしての参加になっています。
このシック系の人々の参加により、アルバムのサウンドの方向性はファンキーなノリと力強いドラムサウンドのミックスされたものへと向かっていきました。
仮のバンド名は、Big Brotherとなり、スーパーグループへと発展して行きます。
当初の計画では、アンディ、ジョン、トニーの3人を中心に据え、トラックごとに異なるヴォーカルを立てる、というものだったようです。
そのヴォーカル候補として、ミック・ジャガー、ビリー・アイドルなどが挙げられていたようです。
様々なヴォーカルの入ったアルバム、それはそれで聴いて見たかった気もしますね。
しかし、そんな候補の一人であり、ジョンやアンディにとってのアイドル的存在でもあったRobert Palmer(ロバート・パーマー)と1曲(Communication)をレコーディングしています。
アンディとジョンが熱烈に願った共演は感触が非常に良かったようです。
また、ロバートも然りで、このバンドの「ゲット・イット・オン」のデモを聴くと、ぜひとも歌いたいと申し出ます。
その曲でのケミストリーにより、このバンドは成功する、という実感を両者とも感じることができました。
結果として、アルバム全体でロバートが専任のヴォーカルを担当することになりました。
ロバート・パーマーは既に1960年代から活動しているソウルシンガーとして、ある程度の地位と知名度を確立していました。
しかし、評価はそこそこ高くとも、ブレイクするところまで至らず、中くらいの位置にとどまっていました。
アメリカでも、成功にまでは至っていません。
そんな彼にとって、この人気絶頂のデュラン・デュランのサイドプロジェクトとしての活動への参加は間違いなくプラスになると思ったに違いありません。
自分たちの思うようなロックサウンドを追及したい、と考えるアンディとジョン、これからのキャリアの飛躍につながる、と考えたロバート。
両者の思惑は合致し、元シック組の力も借りながらスーパーグループへの道を歩き始めました。
結局バンド名は、レコーディングを行なったThe Power Station recording studioにちなんで、THE POWER STATION(パワー・ステーション)と名付けられました。
では、今日は1985年にリリースされた、THE POWER STATION(パワー・ステーション)の1stアルバム、THE POWER STATION(ザ・パワー・ステーション)をご紹介します。
THE POWER STATION(ザ・パワー・ステーション)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、SOME LIKE IT HOT(サム・ライク・イット・ホット)。
ロバート、アンディ、ジョン共作による、ファンキーかつ力強いロックナンバーです。
やはり、これは強烈でしたね。
デュラン・デュランのサイドプロジェクト、というバンドからいったいどんな音が飛び出すのか、想像をはるか斜め上に上回る楽曲での登場でした。
トニーのパワフルで生々しいドラムによるイントロが、これだけで特別な存在感を放ってましたね。
そこに、グルーヴ感あふれるジョンのベース、そしてファンキーに刻むアンディのカッティングギター。
さらにファンキーに曲を彩るブラス隊の軽快でリズミカルな響き。
デュラン・デュランから出てきたとはとても思えない、はるかにワイルドなロックが聴けます。
そして、何よりも特筆すべきは、迎えたヴォーカリスト、ロバート・パーマーの超ダンディなかっこよさではないでしょうか。
ジョンやアンディよりもはるかにキャリアのある、ベテランソウルヴォーカリストのロバートの歌唱が、見事にこの楽曲を高みに押し上げています。
本家のサイモンも色気のある声を持ってると思いますが、やはりこの歳を重ねた者にしか出せない、アダルティな魅力を振りまいていますね。
ヴォーカルを彼一本に絞ったのは、ナイスチョイスだったと思います。
また、ギターソロでは、アンディが非常にかっこよく弾きまくってますね。
これぞ、デュラン・デュランでは出来なかったアンディの理想の形なのでしょう。
ワイルドな音で、気持ちよく弾き上げていて楽曲にぴたりとはまった名ソロプレイと思います。
バンドの初お目見えの曲は、想像を上回る衝撃の楽曲に仕上がっていたと思います。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第6位、同誌Mainstream Rockチャートで第34位、同誌Dance Club Songsチャートで第17位を記録しています。
本家ではほぼ無縁なロックチャートにもランクインしてるところがミソですね。
2曲目は、MURDERESS(マーダレス)。
この曲も、ロバート、アンディ、ジョン共作のロックソングです。
この曲では、アンディのヘヴィでエッジの効いたギターリフが光っています。
これまた力強い楽曲になっていますね。
パワフルなドラムサウンドに乗ったロバートのヴォーカルも冴えてます。
アンディはギターソロで、前曲にも増してたっぷりとワイルドに弾きまくってます。
まさにこういうのをやりかったのでしょう。
楽しんで弾いている様子が目に浮かびます。
サビでは小気味良いホーンセクションで、やっぱりファンク風味が加わってます。
3曲目は、LONELY TONIGHT(ロンリー・トゥナイト)。
ロバートとバーナード・エドワーズによる共作です。
恐らくロバートのソロ作品ってこんなんだろう、って感じさせてくれる、これもアダルティな良曲です。
この曲のソロでは、アンディはロングトーンを生かして楽曲に合わせたメロディ重視のプレイを聴かせてくれます。
リズム隊のグルーヴが、ファンキーかつアダルティで、その上でロバートが大人らしく歌い上げてます。
4曲目は、COMMUNICATION(コミュニケーション)。
ロバート、アンディ、ジョンの3人と、Derek Bramble(デレック・ブランブル)というミュージシャンとの共作です。
ロバートと初のレコーディングを果たした楽曲になります。
このレコーディングで、これはいける、と感じた理由もわかる気がしますね。
ドラム&ベースのリズム隊がぐいぐいと引っ張っていくテンションが心地よいです。
ロバートのヴォーカルもぴったしですし、バンドのまとまり感が際立ってます。
アンディのギターソロは短いですが、このちょい暗めの疾走曲にマッチしてると思います。
この曲は3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第34位を記録しています。
5曲目(B面1曲目)は、GET IT ON (BANG A GONG)(ゲット・イット・オン)。
言わずと知れた、Marc Bolan(マーク・ボラン)作曲のT・レックスの名曲のカヴァー曲です。
とは言え当時は僕はT・レックスを知らなかったので、普通にかっこいい楽曲だと思えました。
後にオリジナルを聞いて聞き比べることになりますが、やはり80年代から洋楽にはまった僕からすると、こっちの方がはるかにかっこよく感じました。
やっぱり耳を引くのはアンディのソリッドでエッジの効いたギターリフでしょう。
この曲の最大の特徴はこの有名なギターリフでしょうけど、ここでこんなにワイルドかつラフにプレイされれば、そりゃアンディの勝ちでしょう。
まあ、後出しじゃんけんのようなもので、レコーディング技術も大きく異なる時代の楽曲を比べるのが野暮ってことになると思います。
いずれにしても、僕はとてもアンディのプレイが非常に気に入りました。
また、ギターソロも気持ちよく弾きまくって、日ごろの鬱憤を晴らしているような爽快感さえ感じられます。
加えて、間奏のベースソロでのかっこいいベースプレイではジョンがグルーヴィーなスラップを決めています。
まあ、上手すぎて、ほんとにジョンが弾いているのか、バーナードが弾いてるんじゃないか、などと疑惑も出てましたが、追求不能なのでジョンが頑張ったということにしておきたいと思いますw
この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第9位、Mainstream Rockチャートで第19位を記録しています。
6曲目は、GO TO ZERO(ゴー・トゥ・ゼロ)。
この曲はロバートと、Guy Pratt(ガイ・プラット)というミュージシャンの共作です。
これもまたファンキーでいい曲ですね。
ベースが前面に出てグルーヴ感をたっぷり生み出してます。
そこにホーンセクションが心地よく絡んで、ファンキーなロックとして完成を見てます。
アンディのギターリフも、いい感じで切り込んできてます。
ギターソロでは軽やかに、そしてアーミング多用して盛り上げてます。
ただ、ヴォーカルと交互にギターリフを弾くパートでは、ちょっと引き出しが少ないなって感じてしまうのは、まあ仕方ないでしょう。
最後のアウトロでは、ちょっと気持ちのよいソロメロディを奏であげてます。
もうちょっと長く聴いていたかったと思います。
ロバートのヴォーカルはやはりダンディズムの固まりのようで、曲を非常に渋く魅力的にしてます。
7曲目は、HARVEST FOR THE WORLD(ハーヴェスト・フォー・ザ・ワールド)。
この曲は The Isley Brothers( アイズレー・ブラザーズ)の1976年のヒット曲のカヴァー曲です。
ここでは、ロバートのヴォーカルと交互にアンディのヴォーカルが聴けます。
アンディはギターだけでなく、歌も歌いたかったんだろうな、という気配も感じられます。
二人のハモリも悪くないですね。
オリジナル曲は軽めのロックですが、ここでは、ハードエッジなギターリフと、力強いドラム、グルーヴィーなベースによって、なかなかのハードロックに仕上がっています。
珍しくギターソロはオミットされてます。
ラスト8曲目は、STILL IN YOUR HEART(スティル・イン・ユア・ハート)。
この曲は、ロバート、アンディ、ジョンの3人の共作です。
アルバム全体では、ちょっと毛色の変わった曲です。
シンセとピアノがメインで曲を引っ張っています。
なぜか、ここまで元気いっぱいプレイしていたアンディが引っ込んで、目立ちません。
そのうえ、間奏ではギターソロではなくサックスソロが始まり、長尺のプレイを聴かせ、なんとそのままフェイドアウト(!!)して行きます。
アンディ、どこへいった!?と思いながら、アルバムはエンディングを迎えます。
ちょっと蛇足気味な楽曲で終了です。
まとめとおすすめポイント
1985年にリリースされた、THE POWER STATION(パワー・ステーション)の1stアルバム、THE POWER STATION(ザ・パワー・ステーション)はビルボード誌アルバムチャートで第6位を記録しています。
デュラン・デュランのメンバーによるサイドプロジェクトバンド、ということで、いったいどんな音が聴けるのだろう、と思っていましたが、大方の予想を斜め上に上回る斬新なファンクロックミュージックを聴かせてくれました。
特に本家の活動でのギタープレイの扱いに不満を大きく抱いていたであろうアンディによる、ストレスフリーなプレイには驚かされました。
窮屈な世界から、一気に解放されたかのような伸び伸びとしたプレイには、こちらもすがすがしさを感じたものです。
加えて、こんなにちゃんと弾けるんだ、っていう面でもなかなかの衝撃だったと思います。
もう一人、ジョンのベースもなかなかのグルーヴィー感を生み出してます。
まあ、バーナード・エドワーズが弾いてるのではという疑惑もありますが、公式にはジョンがベーシストとしてクレジットされてますので素直に彼のプレーを褒めてあげたいですw
そして、元シックからのトニー・トンプソンによる力強く活気あふれるドラミングがこれまた素晴らしいですね。
生々しいドラムの音が見事に封じ込められていて、確かに彼等の願うレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナム的な雰囲気をかもし出しているのではないでしょうか。
また、参加ミュージシャンによるブラスサウンドとハードロックの融合も、なかなか斬新だったと感じられます。
そして何より、このプロジェクトで最大の得をしたのは、ロバート・パーマーではないでしょうか。
それまでは知る人ぞ知る、通好みのソウルシンガーだったわけですが、この機会に、一気に世界中で知名度をアップさせてますよね。
僕も、それまで全く彼のことを知らなかったわけですが、どうしてこんな魅力的なシンガーが埋もれてたんだろうと、不思議に感じたくらいです。
元々このプロジェクトは、アルバムを1枚作るだけのプランだったわけですが、予想を上回る成功に伴ってツアーが計画されます。
しかし、ロバートはアルバムの参加のみで、その後計画されたツアーには参加してません。(ツアーには代わりのヴォーカルとして Michael Des Barres(マイケル・デ・バレス)が参加しています。)
そして今回得た知名度を最大限活用して、自身の8thソロアルバム、Riptide(リップタイド)をリリース、そして見事にキャリア最高の成功を収めることになりました。
また、アンディも、この作品で自信をつけたのでしょう。
1986年には念願の1stソロアルバム、Thunder(サンダー)をリリースしています。
このように、参加メンバーの活動を広げる点で大きな役割を果たしたパワー・ステーションの成功でしたが、その一方で結局は本家デュラン・デュランの求心力を弱めることにもつながっていく、という皮肉な結果も生み出しています。
まあ、いずれにしても、この時代の気まぐれが生んだとも言えるスーパーグループは、80年代のド真ん中で一瞬の大きなきらめきを放ったと言えるでしょう。
エイティーズのキラキラサウンドが広まってる中で、骨太のファンキーハードロックが席捲したわけですから。
残念ながらこの記事を書いている時点(2019年7月)で、このプロジェクトに参加した、ロバート、トニー、そしてバーナードの3人はすでに亡くなっておられます。
しかし、彼等の生み出した熱いサウンドを今でも聴ける幸運に感謝したいものです。
チャート、セールス資料
1985年リリース
アーティスト:THE POWER STATION(パワー・ステーション)
1stアルバム、THE POWER STATION(ザ・パワー・ステーション)
ビルボード誌アルバムチャート第6位
1stシングル SOME LIKE IT HOT(サム・ライク・イット・ホット) ビルボード誌シングルチャート第6位、Mainstream Rockチャート第34位、Dance Club Songsチャート第17位
2ndシングル GET IT ON (BANG A GONG)(ゲット・イット・オン) シングルチャート第9位、Mainstream Rockチャート第19位
3rdシングル COMMUNICATION(コミュニケーション) シングルチャート第34位