前作の大成功を受けて出来た充実のガールズポップ THE BANGLES - EVERYTHING(エヴリシング)
大ヒットした前作からの流れ
1986年リリースの、THE BANGLES(バングルス)の2ndアルバム、DIFFERENT LIGHT( シルバースクリーンの妖精)は、大ヒット曲を連発し、ビルボード誌アルバムチャート第2位、アメリカで300万枚のセールスを記録しました。
この作品の先行シングルのMANIC MONDAY(マニック・マンデー)から一気に注目を浴びたバングルスの4人。
このメディアによる過剰な注目が、バンド崩壊へのきっかけになるとは、最初は誰も思わなかったに違いありません。
ヒット曲を連発し、アルバムセールスも好調となると、メディアに注目されるのは当然です。
しかし、どうしてもその注目はリズムギター&ヴォーカルのSusanna Hoffs(スザンナ・ホフス)に集中することになりました。
やはりその大きな要因は、レコード会社のシングルカットにあるのかもしれません。
結局、前のアルバムからは4曲のシングルがカットされましたが、そのうち3曲はスザンナがリードヴォーカルをとっており、もう一曲のエジプシャンもスザンナを含む3人でヴォーカルを分け合っています。
つまり、レコード会社も、スザンナがルックス、ヴォーカルの点で4人の中で頭一つ抜けていたことを認識しての戦略だったと思われます。
その戦略は当たり、シングル、アルバム共にヒットしたわけです。
しかし、そうなるとどうしてもスザンナ一人に注目が集まるのは避けられませんね。
アルバムでは、結構4人で均等に近い感じでヴォーカルを分け合って、リードヴォーカル、という存在なしの、4人全員がリードを取る、という形になっています。
ですが、一般の人のほとんどが、バングルスのリードヴォーカルはスザンナと認識したに違いありません。
そうなると、他の3人はおもしろいはずがありません。
メディアは、ルックス、ヴォーカルで際立つスザンナをメインに取り上げます。
加えて、1987年にはスザンナは母親が監督した、The Allnighterという映画の主演までやっちゃってます。
まあ、あのルックスですからね。
こんな感じで結局、バンド内に摩擦が生じることになってしまったのです。
しかし、そんな中でも、バングルスは映画 Less Than Zero のサウンドトラックに楽曲を提供。
Simon & Garfunkel(サイモン&ガーファンクル)の A Hazy Shade of Winter(冬の散歩道)をハードにカバーした、Hazy Shade of Winter(冬の散歩道)がシングルカットされ、ビルボード誌シングルチャートで、Tiffany(ティファニー)の”Could’ve Been” (思い出に抱かれて)によってNo.1を阻止されたものの、第2位を記録。
人気が確立してるのがはっきりわかります。
ですが、その裏では摩擦、軋轢があったとは、当時の僕には思いには及びませんでしたね。
それでも、大ヒット作の次の作品を作るためにバンドは力を尽くします。
前作ではDavid Kahne(デイヴィッド・カン)がプロデュースしていましたが、前作での彼の仕事に満足できなかったバンドはプロデューサーの変更を決行します。
恐らく、1番彼のプロデュースに不満だったのは、ドラム&ヴォーカルのDebbi Peterson(デビー・ピーターソン)で間違いないでしょう。
エジプシャンのレコーディングでは、一人だけリードヴォーカルパートを与えられず、ドラムもドラムマシンが採用された、という仕打ちを受けてますからね。
それも、彼女のヴォーカルがあまり好きではない、という理由で・・。
というわけで、今回はプロデューサーに Davitt Sigerson(ダヴィット・シガーソン)を起用しています。
加えて、多くの外部ライターも取り入れて、バラエティに富んだ良曲を多く含むアルバムに仕上がりました。
では今日は、1988年リリースの、THE BANGLES(バングルス)の3rdアルバム、EVERYTHING(エヴリシング)をご紹介したいと思います。
EVERYTHING(エヴリシング)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、IN YOUR ROOM(恋の手ほどき IN YOUR ROOM)。
軽快なガールズポップの典型のような非常にノリのよい楽曲ですね。
この曲は、スザンナと、Billy SteinbergとTom Kellyのコンビとの共作になっています。
このコンビは、何と言ってもMADONNA(マドンナ)の1984年の大ヒット曲、LIKE A VIRGIN(ライク・ア・ヴァージン)の作者でもあります。
80年代のヒットメーカーの手掛けたこの作品が悪いわけがありません。
しかし、この曲に関しては80年代ポップスというより、60年代のロックをイメージして作られたようです。
バングルスのメンバーたちも、60年代ミュージックがお気に入りで、PVでも楽しそうに演奏している様子が見られますね。
もちろん、60年代のあの古いままのプロダクションではありません。
ちゃんと60’sの音楽性を放ちながらも、80年代らしく生み出された楽曲といえます。
そして、この曲はスザンナがリードヴォーカルをとっています。
PVでも彼女が、白いミニスカートで、腰をくねらせながらギター&ヴォーカルをとっている様子が非常に印象に残りますね。
いや、どうしても彼女に注意が行くのは仕方ないでしょう。
小柄で、ちょっと浅黒い肌ですが、あの大きな目と整った顔、そして何より甘ったるく魅力的なあの声。
レコード会社が彼女をメインに売って行こうと考えるのは当然でしょう。
また、メディアが彼女に1番注目するのも当然だと思います。
とはいえ、残りの3人が面白くないのもわかりますね。
残りの3人も決して悪いわけではないのですが、スザンナが突出しすぎてるだけなのです。
まずはこのアルバムの先行シングルとして、スザンナがリードヴォーカルを取るこの曲がリリースされました。
この曲はビルボード誌シングルチャートで、第5位を記録しています。
2曲目は、COMPLICATED GIRL(愛しのガール)。
この曲は、ベース&ヴォーカルのMichael Steele(マイケル・スティール)とDavid Whiteという外部ライターの共作になっています。
これはイントロからとてもキラキラしてて心地よいポップロックになっていますね。
リードヴォーカルは、マイケル・スティールです。
彼女の声はちょっと低いですが、優しくてこの手のミドルテンポの楽曲にぴったりだと思います。
また、バングルスの楽曲全般に言えますが、コーラスが非常に美しく、聴き心地がとてもいいですね。
やはり彼女らの最大の特徴は、演奏ももちろんよいのですが、全員がリードヴォーカルをとれて、コーラスも歌えるというところだと思いますね。
4人のハーモニーが、ほぼ全ての楽曲に爽やかさを与えています。
3曲目は、BELL JAR(邦題:BELL JAR)。
この曲は、ドラム&ヴォーカルのDebbi Peterson(デビー・ピーターソン)と、リードギター&ヴォーカルのVicki Peterson(ヴィッキー・ピーターソン)のピーターソン姉妹による楽曲です。
ヘリのプロペラ音から始まるこの曲は、とても勢いのあるガールズロックバンドらしい疾走曲になっています。
リードヴォーカルはヴィッキーになっています。
彼女の声も、十分に合格点を与えていいと思います。
また、サビで絡むコーラスがこれまた美しくきまっています。
4曲目は、SOMETHING TO BELIEVE IN(邦題:SOMETHING)。
この曲はマイケルが、David White、Eric Lowen、Dan Navarroなどの外部ライターと共に作った曲です。
リードヴォーカルも彼女がとっています。
前のアルバムでもありましたが、彼女はこんな感じの語るような歌が好きなようですね。
間奏とアウトロは、独特の雰囲気があって、包み込むような優しいメロディが心地よいです。
5曲目は、ETERNAL FLAME(胸いっぱいの愛)。
ここで、80年代を代表する大ヒット曲の一つが登場です。
この曲は、1曲目と同様、スザンナとBilly SteinbergとTom Kellyのコンビとの共作です。
今回は、素晴らしいポップバラードを作ってくれました。
ETERNAL FLAMEとは直訳すると、永遠の炎で、お墓などで故人のためにずっと灯されている火のことを指しているようです。
ちょうど、スザンナがバンドメンバーと共に、エルヴィス・プレスリーの墓のあるメンフィスにいった時のことが、曲が出来るヒントになったようです。
バンドが行ったときに、ちょうど透明のビニールのハコが水浸しになっていて、なんとそのETERNAL FLAMEが消えていたようです。
で、その中に何が入ってるのか尋ねたら、”That’s the eternal flame“(それがETERNAL FLAME(永遠の炎)だ)、と言われたみたいです。
まあ、旅先で起こったこの軽い笑い話を、Billyに話すと、彼も幼少時代に見たことのあるETERNAL FLAMEについて思い出して、そうした事にインスパイアされて曲が作られました。
出来上がった曲は、もちろん共作者のスザンナがリードヴォーカルを務めています。
それにしても、この曲はアルバムの他の曲と全く毛色の変わった作品になっていますね。
全然バンドサウンドではありません。
PVでも、演奏の様子は全く描かれず、4人のイメージビデオみたいになっています。
コーラスで残りの3人が歌ってもいますが、やはりスザンナが圧倒的な存在感ですね。
声も顔も魅力的過ぎます。
また、この曲のレコーディングの時に、スザンナが全裸で歌った、という話がラジオや雑誌などで語られてましたね。
そうすることで、艶のある歌が録音できた、って話です。
これはかなりセンセーショナルな話題でした。
これはプロデューサーのダヴィット・シガーソンのアイディアでした。
でも、実はアイディアではなくて、ただの悪ふざけだったようです。
そのときは、あの Olivia Newton-John(オリヴィア・ニュートン・ジョン)も同じ事をして、素晴らしいパフォーマンスを引き出した、と言ってスザンナをだまくらかしたようです。
で、後に嘘だよん、ってバラしたんだと。
まあ、服を着ててもそうでなくても、あの色っぽいヴォーカルは変わらず録音できたと思いますけどね。
このように当時はやはりスザンナ中心に話題が広がっていたと感じられます。
でも、残り3人の名誉のために付け加えれば、やはりこの曲はスザンナのソロではちょっと不足な気もします。
3人のコーラスが、この曲の魅力を一層高めているのではないでしょうか。
ガールズバンド的な曲ではありませんが、歌い継がれる名曲にしたのは、やはりこのバングルスの4人の力、特にヴォーカル能力だと思います。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートでNo.1を獲得、またAdult Contemporaryチャートでは2週連続No.1を獲得しました。
6曲目は、BE WITH YOU(いつでもBE WITH YOU)。
この曲はデビーと Walker Igleheartという外部の方との共作となっています。
そして、リードヴォーカルはデビーです。
モータウン系のノリを出すベースラインに、軽快なドラム、スカっぽく2拍目、4拍目にソリッドなギターカッティングが入る、まさにオールディーズっぽいバンドサウンドになっています。
そして歌うデビーのヴォーカルも決して悪くないと僕は思います。
前のプロデューサーは何が気に入らなかったんでしょうかね。
あと、サビ周りでのコーラスとの掛け合いがとてもいいですね。
サビもとてもキャッチーで、それに絡んでくる残り3人のハーモニーが爽やかな楽曲に仕上げていると思います。
この曲は3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第30位を記録しています。
7曲目は、GLITTER YEARS(憧れのGLITTER YEARS)。
この曲は2曲目と同じでマイケルとDavid Whiteの共作で、マイケルがリードヴォーカルをとっています。
この曲も少し古めの曲調ですが、それを彼女ららしく80年代に蘇らせたいい曲に仕上がっています。
切ない感じの歌メロと、そこに重なるコーラスがさらに切なさを倍増させてくれてます。
8曲目は、I’LL SET YOU FREE(邦題:SET YOU FREE)。
この曲はスザンナと、Eric Lowen、Dan Navarroの二人のライターとの共作です。
そしてリードヴォーカルはスザンナです。
軽妙なイントロから始まる優しくゆったりした曲調にはとても癒されますね。
スザンナのヴォーカルを堪能できるのは、とっても良いですし、サビで他のメンバーのコーラスが入って一層いい曲になっていきます。
この曲は4thシングルとしてイギリスとオーストラリアのみで「さよならシングル」としてリリースされます。
というのも、このリリースの数週前にすでにバンドは解散状態に陥ってしまっていたからでした。
解散については、まとめで後述したいと思います。
9曲目は、WATCHING THE SKY(大空の彼方に)。
この曲はスザンナとヴィッキーの共作で、ヴィッキーがリードヴォーカルを務めています。
なかなかどっしりと落ち着いた雄大なロックソングになっています。
10曲目は、SOME DREAMS COME TRUE(邦題:DREAMS)。
この曲は6曲目と同様、デビーとWalker Igleheartの共作で、なかなか軽快なガールズポップになっています。
この二人の組み合わせはノリがよい曲を生み出して、なかなかいいコンビのようですね。
デビーの歌うサビもキャッチーで、とても爽快な楽曲です。
11曲目は、MAKE A PLAY FOR HER NOW(邦題:MAKE A PLAY)。
この曲は、ヴィッキーと、元KISS(キッス)のギタリスト、Vinnie Vincent(ヴィニー・ヴィンセント)との共作になっています。
もちろん、ヴィッキーがリードヴォーカルをとっています。
切なくも、軽快なミドルテンポで進む良曲ですね。
サビの部分でのメンバーのコーラスが、いっそう切なさを引き立たせていますね。
超絶早弾きプレイで知られるギタリスト、ヴィニー・ヴィンセントですが、この曲では12弦ギターによる美しい音色で参加しています。
全然イメージが違いますが、とっても美しい曲になっています。
12曲目は、WAITING FOR YOU(邦題:WAITING FOR YOU)。
この曲もスザンナと、Billy SteinbergとTom Kellyのコンビとの共作になっています。
そしてリードヴォーカルはスザンナです。
やはりこの3人で組むと、いい曲ができますね。
しっとりとしたメロディのポップソングに乗ったスザンナのヴォーカルが絶妙にいいですね。
サビでの、少し力んで歌うところなんて悶絶ものです。
もちろん、他のメンバーのコーラスによって、スザンナのヴォーカルが引き立てられてるのも間違いないです。
ラスト13曲目は、CRASH AND BURN(邦題:CRASH & BURN)。
この曲はヴィッキーと、Rachel Sweetというシンガーとの共作になっており、リードヴォーカルはヴィッキーです。
アルバムのラストを飾るにふさわしい、ノリノリのロックンロールになっています。
非常に爽やかな印象を与えて、アルバムは幕を下ろします。
まとめとおすすめポイント
1988年リリースの、THE BANGLES(バングルス)の3rdアルバム、EVERYTHING(エヴリシング)は、ビルボード誌アルバムチャートで第15位、アメリカで100万枚のセールスを記録しています。
前作の大成功を受けて作られたこのアルバムは、多くの外部ライターや新たなプロデューサーを迎えたりなど、意欲的に制作され、非常にクオリティの高いポップアルバムになりました。
ガールズバンドのお手本のように、キラキラ輝くカラフルな楽曲が並んでいます。
そのバリエーションの多さを可能にしているのは、やはり4人がそれぞれ楽曲を作り、歌う、そうした能力を持っていることだと思います。
とりわけ、4種のリードヴォーカルと、それぞれにからむヴォーカルハーモニーが、爽やかなガールズポップを生み出しているに違いありません。
このように、内容は前作と同等か、もしくはそれをしのぐ作品になっているものの、バンドメンバーの中には大きな軋轢が生じてしまっていました。
前作のヒットの頃から見られる、スザンナだけに注目が集まる、という現象です。
今回も全13曲ですが、バランスよく4人の作品、もしくは4人のヴォーカル曲が揃っています。
しかし、先行シングルと2ndシングルは、やはりスザンナがヴォーカルをとった曲でした。
それも、それぞれ、第5位とNo.1という大ヒットを記録しています。
3rdシングルはデビーのヴォーカル曲で、第30位に終わっています。
この、レコード会社による、スザンナをメインに売り出す戦略は見事に的中したわけです。
また、TVショーでも、雑誌でもメディアはスザンナを中心に取り上げます。
他のメンバーが面白かろうはずがありません。
そうして生じてしまったバンド内の摩擦により、ついにバンドは活動停止、4人はそれぞれの道を歩んでいくことになってしまいました。
何が悪かった、って極論すれば、スザンナが他のメンバーに比べて、ルックス、ヴォーカル共に魅力的過ぎた、ということに尽きるでしょう。
やはりプリンスをはじめ、世の多くの男性の目と耳を釘付けにしたのは、スザンナの妙に色っぽい視線だったり甘ったるい声だったりしたのは動かしようのない事実だと思います。
なので、もし僕がレコード会社の社長だったら、完全にスザンナをリードヴォーカルに据えたアルバムを制作させたかもしれません。
しかし、スザンナ一人でソロアルバムを出すと、それは違うかな、と思うのも事実です。
やはり、スザンナのヴォーカルは4人のバンドの中だからこそ映えていたのではないでしょうか。
彼女のヴォーカルは、他のメンバーのコーラスと絡んだときに1番魅力的に輝いています。
スザンナが突出してはいたように見えたものの、やはり他の3人がいたからこその輝きだったことは正当に評価されるべきだと思います。
とはいえ、女性の嫉妬や妬みは理屈では解決できなかったわけで、このアルバムをもっていったんバンドは活動を終えます。
なんとももったいないことだと思われますね。
それでも、ガールズバンドのお手本のような優れたアルバムは世に残り、今でも愛聴している人もいます。
その後も多くのガールズバンドが世に出ましたし、これからも出ると思われます。
このアルバムは、そのようなガールズバンドにとって、多くを学べる優れた作品だと思います。
また、ガールズの皆さんでなくても、誰でも聴いて楽しめるポップアルバムにもなってると思います。
チャート、セールス資料
1988年リリース
アーティスト:THE BANGLES(バングルス)
3rdアルバム EVERYTHING(エヴリシング)
ビルボード誌アルバムチャート第15位、アメリカで100万枚のセールス
1stシングル IN YOUR ROOM(恋の手ほどき IN YOUR ROOM) ビルボード誌シングルチャート第5位
2ndシングル ETERNAL FLAME(胸いっぱいの愛) シングルチャートNo.1、Adult Contemporaryチャート2週連続No.1
3rdシングル BE WITH YOU(いつでもBE WITH YOU) シングルチャート第30位