エイティーズ感満載のデビューアルバム MR.MISTER(Mr.ミスター) – I WEAR THE FACE(アイ・ウェア・ザ・フェイス)
デビュー時にさかのぼる
僕は1985年リリースのMr.ミスターの2ndアルバム、WELCOME TO THE REAL WORLD(ウェルカム・トゥ・ザ・リアル・ワールド)が大好きで、彼等の魅力にはまってました。
絶妙なポップセンス、それをさりげなく支えるテクニシャンによるプレイ。
その塩梅が見事に調和していて、最高級のポップアルバムだと思っています。
そんな名作をリアルタイムで聴けた幸運に感謝しつつ、その前の作品にも関心が向くのは当然の流れと言えるでしょう。
彼等のデビューアルバムはその前年に発売されています。
彼等の結成までの流れを簡単に言うと、1978年に、スタジオミュージシャンとして活動していたRichard Page(リチャード・ペイジ)(ヴォーカル)が 、Steve George(スティーヴ・ジョージ)(キーボード)と共にバンドPAGES(ペイジズ)を結成。
小ヒットも出たり、評論家による好意的なレビューがあったものの、商業的には失敗。
3枚のアルバムを残してあえなく解散します。
解散後二人は楽曲提供やスタジオミュージシャンとして活動を続け、機会を待ちます。
そして1982年までによりポップ指向のバンドを作り始めます。
5人で始めた前回は最終的に2人になってしまいましたが、再び今回もパーマネントなバンドを目指し、メンバーを集めていきます。
そうして、ギタリストのSteve Farris(スティーヴ・ファリス)とドラムスのPat Mastelotto(パット・マステロット)が加入していきます。
元々は5人バンドを計画していましたが、リチャードがベースも弾けるため、ヴォーカル&ベースを担当することになり、この4人でのデビューを目指すことになりました。
4人とも、セッション&スタジオミュージシャンとして様々なアーティストのためにプレイしていましたので、テクニシャンの集まりとなりました。
加えて、それまでの活動が、バンドにヴァリエーションを与える結果となりました。
また、かつてのペイジズではAOR路線のソフトな音楽が特徴でしたが、今回は少しロック色を加えて新たな魅力を付け加えるのに成功しています。
では今日は、1984年リリースのMR.MISTER(Mr.ミスター)のデビューアルバム、I WEAR THE FACE(アイ・ウェア・ザ・フェイス)をご紹介します。
I WEAR THE FACE(アイ・ウェア・ザ・フェイス)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、HUNTERS OF THE NIGHT(ハンター・オブ・ザ・ナイト)。
疾走感と爽やかさを感じられる優れたオープニングですね。
やはり1984年ということで、エイティーズサウンド全開となっております。
電子ドラムのスネアの音や、キラキラしたシンセサウンド。
途中にはストリングスも入れたりして、豪華なアレンジとなっています。
やはりこのバンドの顔のリチャードのヴォーカルがいいですね。
ほどよくハスキーで、高音も出て、美しいヴォーカルが響き渡ります。
ファリスのエレキのソロはほぼありませんが、きれいなアルペジオで楽曲を引き立ててます。
この曲は先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第57位を記録しています。
2曲目は、CODE OF LOVE(コード・オブ・ラヴ)。
ベースから始まり、シンセが入ってきて、ドラムが加わりアルペジオが彩ってくるイントロが秀逸です。
この曲のみ、スティーヴ・ジョージがメインヴォーカルを取っているようです。
リチャードに比べると温かみがある感じで悪くないですね。
サビの二人のコーラスもとてもきれいです。
この曲では、ファリスのギターが活躍しています。
アルペジオはいつもどおり美しいですが、ソロでかなり長尺なプレイを披露しています。
僕は2ndアルバムでも聴けた彼のプレイはとても好きですね。
テクニシャンならではのツボを抑えたプレイに、心地よい音色。
ファリス加入が、このバンドにいい具合のロック色を加えたと思えます。
3曲目は、PARTNERS IN CRIME(パートナーズ・イン・クライム)。
うまくいけばシングルヒットも狙えたのではないかと思える佳曲です。
シンセがいい雰囲気を醸し出していますし、サビへとつながる展開もとてもかっこいいです。
サビもキャッチーですし、ノリもよくて、後はかっこいいギターソロがあれば完璧だったかな、って感じです。
4曲目は、32(32)。
スカっぽいリズムのABメロからのサビへの流れがおもしろいです。
こんな感じでの曲調変化なども、やはりテクニシャンならやりたくなるのでしょう。
でも、テク重視、という感じは受けずにいい塩梅でのポップロックとして完成しているところが彼等の魅力の一つだと思います。
5曲目は、RUNAWAY(ランナウェイ)。
爽やかポップロックです。
キラキラシンセで優しく始まっていきます。
リチャードの抑えたヴォーカルが歌いだして、少しずつ盛り上がっていきます。
そしてサビは伸びやかに爽やかにキャッチーな歌メロになっています。
この曲もシングル向けではないかと思いますね。
キーボードのスティーヴ・ジョージがサクソフォンを爽やかに披露しています。
非常に心地よい、いい楽曲だと思います。
6曲目は、TALK THE TALK(トーク・ザ・トーク)。
B面1曲目となるこの曲は、けっこうロック色の強いかっこいい曲です。
基本的に、ギターリフが楽曲を彩ってるところがロックっぽいです。
ロック曲だけに、ファリスのギターソロも爽快に突き抜けていますね。
やっぱり、彼のギターソロプレイはいいなあ、と感じます。
僕の中では、彼のプレイはアームの使い方や、メロディアスな部分がELTのギタリスト伊藤さんを思い出させてくれます。
この曲は2ndシングルとしてカットされましたが、チャートインしていません。
7曲目は、I’LL LET YOU DRIVE(アイル・レット・ユー・ドライヴ)。
前曲からの流れがとてもいい、これまた爽快なロックソングです。
イントロのシンセがいかにも80年代サウンドですね。
間奏のシンセとエレキギターのコーラスがとても素敵です。
そして、始まるギターソロ。
やはりファリスのプレイは最高です。
この曲は3rdシングルとしてカットされましたが、チャートインしていません。
8曲目は、I GET LOST SOMETIMES(アイ・ゲット・ロスト・サムタイムス)。
エレキのクリーンストロークが心地よく素敵な空間を生み出しています。
サビでは、変拍子もさりげなく使われてます。
やはりテクニシャンは変拍子、どうしても使いたくなりますよね。
でも、ポイントは、さりげなく、という部分だと思います。
楽曲を決して壊さない、ちょっとしたアクセント程度に止めているところが、このバンドらしくていいです。
9曲目は、I WEAR THE FACE(アイ・ウェア・ザ・フェイス)
アルバムのタイトルトラックがここで登場です。
ファンキーなノリのある、楽しい楽曲です。
縦ノリだけでなく、グルーヴィーな横ノリも出来る、やっぱりテクニシャンの集まりなんですね。
シンセ、ギター、ドラム、それぞれがアルバム中で異彩を放っている楽曲になってます。
10曲目は、LIFE GOES ON(ライフ・ゴーズ・オン)。
アルバムラストは、もう1曲グルーヴィーな曲で締めてます。
人生は続いていく、というメッセージソングとなってます。
ちょっとサビが寂しい感じはありますが、楽曲全体にいろんな音が散りばめられていて楽しい楽曲です。
ベースもうねってますし、ドラムのリズムパターンも独特です。
シンセも、いろんなところで散りばめられてます。
そして何よりファリスのギタープレイがいいです。
ソロでは、いつものように、いい音で気持ちのよいメロディを奏でてます。
まとめとおすすめポイント
1984年リリースのMR.MISTER(Mr.ミスター)のデビューアルバム、I WEAR THE FACE(アイ・ウェア・ザ・フェイス)はビルボード誌シングルチャートで第170位にとどまりました。
かんたんにいろんなアーティストが彗星のように現れてスターダムに輝くように見えた80年代でも、誰でもがそんな成功を収めるわけではない、という厳しい現実を考えさせられる結果になってます。
やはり、いい曲を作るだけでなく、いろんなタイミングなども関係するのでしょう。
売れなかった理由の一つに、他人の方法でやってしまったことを挙げています。
外部からプロデューサーを招き、他の人が言っていることに基づいて作っていったことが結局は間違いだったとリチャードは言ってます。
また、ヒット狙いし過ぎたのも原因ではないかとも考えています。
もう一つの原因として恐らく1番大きいと思われるのは、アルバムリリース後にライヴツアーや最低限のプロモーションも行なわれなかったようです。
むしろ、他のバンドやアーティストのサポートの仕事を引き続き行なっていたわけです。
これでは、メジャーにはなりにくいですね。
レコード会社、またはレーベルが力を入れてなかったのが最大の敗因ではないでしょうか。
では、170位だから、アルバムの内容が悪いのか、というと決して僕はそうは思いません。
なかなかの粒よりの楽曲が揃っていますし、腕は抜群のプレイヤーたちの集団なので、演奏的にもとてもよいです。
また、リチャードのヴォーカルも、とても魅力的な高音を持ってると思いますね。
彼は、このアルバムリリースの直後に、TOTOとCHICAGO(シカゴ)から、ヴォーカリストとしての加入を誘われています。
結局彼は、自分のバンドでの成功を1番夢見ていたのでしょう。
2件とも断ってしまってます。
しかし、次の2ndアルバムでは、プロデュースにはバンドも自ら加わり、自分たちの望む形のアルバムを作り上げることになりました。
結果、大ヒットアルバムになったわけです。
信念を曲げずに貫いたリチャード、立派です。
世界的な大ヒット直前に出されたこのデビューアルバムも、決して内容的には2作目に遜色ないと僕は思っています。
80年代の流行を取り入れ、テクニシャンたちの優れた演奏によって、デビューアルバムにして既にバンドのアイデンティティをしっかりと確立しています。
時代にマッチしながらも、2作目の大ヒットの陰に隠れた存在となってしまいました。
しかし、絶妙な好作品として忘れてはいけないアルバムだと思っています。