グランジの波に押しつぶされた名盤 MR.BIG - BUMP AHEAD

前作の成功を受けて、道を踏み誤る





1991年リリースのMR.BIGの2ndアルバム、LEAN INTO IT(リーン・イントゥ・イット)はビルボード誌アルバムチャートで第15位、アメリカで100万枚を売り上げました。
グランジが台頭して、多くの80年代からのハードロックバンドが淘汰されていく中、なかなかの好成績をあげたと思いますね。

 

やはりこの成績は、アルバムからのシングルで、世界中で大ヒットとなったTO BE WITH YOU(トゥ・ビー・ウィズ・ユー)の効果であることは間違いないでしょう。
アメリカや日本を初めとして、数多くの国でNo.1を記録したこの曲によって、一気にMR.BIGはメジャーに駆け上ったのです。

 

これをきっかけにさらに飛躍を遂げたいバンドは、3rdアルバムの製作に取り掛かります。
ところが、レコード会社は大きな圧力を掛け始めます。
シングルヒット狙いのソフトな楽曲を多く入れるようにというヤツです。

 

1番状況が似てるのは80年代のNIGHT RANGER(ナイト・レンジャー)に降りかかった圧力かもしれません。
SISTER CHRISTIAN(シスター・クリスチャン)などのヒットにより、もっとヒット曲をというレコード会社の圧力により、自分らの望むハードロックが出来ずに、セールスも下降していった、あの経験です。
ナイト・レンジャーに起きた悲劇がここで繰り返されてしまったのです。

 

結果として、当初出来かかっていたアルバムから、大幅に楽曲の入れ替えが行なわれます。
そのため、基本的にはブルーズに根ざしたハードロックではありますが、全体のイメージとしてメロウでバラードライクな楽曲の割合が多いアルバムが出来上がりました。
さて、グランジ旋風が吹き荒れている1993年に、この戦略は効を奏したのでしょうか。

 

では、今日は、1993年リリースのMR.BIGの3rdアルバム、BUMP AHEAD(バンプ・アヘッド)をご紹介します。

BUMP AHEAD(バンプ・アヘッド)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、COLORADO BULLDOG(コロラド・ブルドッグ)。

 

1st、2ndアルバムからの鉄則どおり、アルバムのオープニングは超絶テクの疾走ナンバーで幕を開きます。

 

今回もまたたまりませんね。
まず、イントロの3人の超絶プレイヤーの絡みが素晴らしすぎます。
Billy Sheehan(ビリーシーン)のベース、Paul Gilbert(ポール・ギルバート)のエレキギター、Pat Torpey(パット・トーピー)のドラム。
この3者による、超高速プレイの融合が、いきなり度肝を抜いてくれます。

 

Aメロの、ウォーキングベースの上で歌うERIC MARTIN(エリック・マーティン)も、相変わらずかっこいいですし、その後のハードロックパートでもいいヴォーカルを聴かせてくれていると思います。
やはりこのバンドのいいところは、歌メロを大切にしていて、ヴォーカルの裏では楽器隊はそれを支える感じでプレイしてるように感じられます。
もちろん、キレのよいギターオブリや、ベースラインはありますけどね。
ちゃんとヴォーカルを立てています。

 

しかし、間奏の部分では、それぞれが思いっきり振り切ったプレイを見せてくれます。
高速のドラムの上で、ポールの高速ギターソロが弾きまくられ、それに加わるようにビリーのベースが存在感を放っています。
このアルバム全体で言えますが、やはりバンドの創始者のビリーのベースプレイがゴリゴリとはっきりと聞き取れて、非常に好感が持てます。
ちょっとベース聞こえすぎやろ、って思えるところもちょこちょこありますが、それでこそMR.BIGと、感じられます。

 

2曲目は、PRICE YOU GOTTA PAY(プライス・ユー・ガッタ・ペイ)。

 

どっしりシャッフルビートのブルージーなハードロックになります。
この辺が、恐らくビリーがこのバンドで1番やりたかった音楽なのでは、と思えます。
ブルージーでオーソドックスなハードロックで、とても聴き応えがあります。

 

ギターリフもヘヴィで、その裏のベースラインも太いグルーヴ感を醸しだしています。
そして、エリック担当の歌メロも非常にキャッチーでいいですよ、これ。
間奏のハーモニカは、Little John Chrisleyという人の参加プレイです。
ブルージーな楽曲に華を添えています。
その裏のゴリゴリのベースもいい感じです。
速弾きで有名なポールも、この曲ではブルージーなソロを決めて、引き出しの多さをアピールしています。

 

懐の深い、貫禄の楽曲になっています。

 

3曲目は、PROMISE HER THE MOON(プロミス・ハー・ザ・ムーン)。

 

ここで、美しいバラードが来ます。
ギターアルペジオが空間処理されて、淡い広がりを演出していて全体的な雰囲気が素晴らしいです。
そして、こんなバラードにもエリックのヴォーカルが合いますね。
切なく優しく歌い上げる、メロディアスな名曲だと思います。
ビリーのベースも、この曲では空気を読んでゴリゴリではありませんが、いい雰囲気で楽曲を裏から支えています。

 

4曲目は、WHAT’S IT GONNA BE(ワッツ・イット・ゴナ・ビー)。

 

この曲もグルーヴ感覚あふれるヘヴィロックですね。
ちょっと地味な感じもありますが、演奏は非常に興味深いプレイであふれています。
ビリーのベースは相変わらず存在感たっぷりです。
楽曲全編でもそうですし、ラストのギターソロの裏でもめっちゃ目立っています。
ポールのギターソロもかなり本気モードの速弾きになっていて、最後がフェイドアウトなのがとてももったいないです。

 

5曲目は、WILD WORLD(ワイルド・ワールド)。

 

この曲は、イギリスのシンガーソングライターのCat Stevens(キャット・スティーヴンス)の1970年のヒット曲のカヴァーです。
レコード会社の圧力により加えられた一曲かもしれません。
確かにトゥ・ビー・ウィズ・ユーに続くヒットになりうるポテンシャルを持った曲だと思いますね。

 

原曲を見事にMR.BIG風にアレンジしていますね。
ポールのアコギも素敵ですし、途中から入ってくるビリーとパットもいい感じです。
でも、この曲のメインはやはりエリックのヴォーカルでしょう。
哀愁たっぷりに、見事に歌い上げています。
もともとの歌メロが良かった分、よりいい曲に仕上がっています。

 

この曲は、アルバムの先行シングルとしてリリースされ、トゥ・ビー・ウィズ・ユーの大ヒットの再現が期待されましたが、ビルボード誌シングルチャート第27位、同誌Mainstream Rockチャートで第33位にとどまってしまいました。

 

6曲目は、MR. GONE(ミスター・ゴーン)。

 

この曲のイントロが非常にいいですよ。
シンセから入って、ドラムが加わり、ギターアルペジオが入ります。
そこにベースが入ってきて、かなりのメロディアスなソロプレイを披露。
最後は美しいコーラスが入ってきます。
このイントロだけでとても高揚感の得られる、秀逸な音世界を楽しめます。

 

歌メロが始まってからも、ギターリフ、ベースラインがしっかりと楽曲を盛りたてます。
そして、やはりコーラスがとてもいいです。
間奏ではベースソロタイムもあり、かなりベースプレイがフィーチャーされた楽曲になっています。
ラストのコーラスで終わるところもグッドです。

 

7曲目は、THE WHOLE WORLD’S GONNA KNOW(ザ・ホール・ワールズ・ゴナ・ノウ)。

 

イントロのポールのエレキのプレイが非常に際立っています。
最後のポルタメントチョーキング(チョーキングで音をゆっくり上げる奏法)がいい味を出しています。
そしてそこに加わるベースのソロプレイもまた、いい感じです。

 

そんなにハードなロックではありませんが、やはりバンドサウンドを強く感じられてとてもいい曲だと感じます。
歌メロもキャッチーで、いいです。
この曲ではギターソロがフィーチャーされていて、たっぷりメロディアスなプレイを聴かせてくれます。
そんなに目立たない曲かもしれませんが、この曲も優秀な楽曲だと思います。

 

8曲目は、NOTHING BUT LOVE(ナッシング・バット・ラヴ)。

 

ストリングス系のシンセが混ざっているバラードで、これも名曲と言っちゃっていいでしょう。
この曲はポール単独で作った曲のようですが、非常にいいメロディ作ってますね。

 

シンセのアレンジがちょっと80年代を感じさせますが、楽曲をうまく彩っています。
ギターソロもポールらしいかっちりしたソロを聴かせてくれます。
ラスト前の、エリックのメロディを崩して歌うところも、非常にかっこよくきまっています。
とてもいい曲です。

 

9曲目は、TEMPERAMENTAL(テンパラメンタル)。

 

プログレっぽいイントロがかっこいいですね。
全体を通して楽器隊が非常にかっこよく目立った楽曲です。
リフなどはかなりヘヴィで、重たいグルーヴ感が心地よく感じられます。
そんな中でも歌はメロディアスで、フックのある曲になっています。

 

ギターソロもベースラインも、かっこいい楽曲です。

 

10曲目は、AIN’T SEEN LOVE LIKE THAT(エイント・シーン・ラヴ・ライク・ザット)。

 

この曲もギターアルペジオが中心のアコースティックなバラードになっています。
これまた、歌メロが優れてますね。
優しいサビを歌い上げるエリックのヴォーカルもとてもいいです。

 

ギターストロークの合間に挟まれるギターソロプレイや、間奏のギターソロもとても美しくて好きですね。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第83位を記録しました。

 

アルバムラスト11曲目は、MR. BIG(ミスター・ビッグ)。

 

彼らのバンド名はブルースロックのブリティッシュバンド、FREE(フリー)のこの曲から取られていましたが、満を持してここでカヴァーしています。
ブルージーな楽曲はもはやお手のものですね。
ポールのギターも、ブルージーなリフもソロもいけています。
ビリーのベースも、目いっぱい目立ってプレイしてますね。
後半の迫力あるベースソロは必聴の価値があると思います。
パットは安定のドラミングです。

 

1970年のオリジナルはやはり当然ながら古い感じは否めませんが、90年代にMR. BIGが見事にかっこよく蘇らせたと思います。

まとめとおすすめポイント

1993年リリースのMR.BIGの3rdアルバム、BUMP AHEAD(バンプ・アヘッド)はビルボード誌アルバムチャートで第82位にとどまり、セールスもゴールド(50万枚)を逃し、商業的には失敗作とされています。

 

やはり、グランジ真っ盛りの世の中で、ハードロックバンドが苦戦を強いられていた多くの例の一つと言えるでしょう。
それに加えて、ブルージーなハードロック、というバンドの方向性が、レコード会社の圧力によって変化してしまったのも苦戦の要因の一つかもしれません。
確かに11曲中4曲のバラードというのは、ハードロックアルバムにしては多すぎな感じはしますね。
さらに、シングルカットもすべてバラード、というわけで、ナイト・レンジャーと同様の道をたどってしまうことになりました。

 

とはいえ、アルバムの内容が悪いわけではなく、そのクオリティは非常に高いものだと僕は思います。
1曲目のテクニカル疾走チューンは、やはり彼らならではですし、ブルージーなハードロックもグルーヴ感たっぷりに聴かせてくれます。
また、バラードも売れなかったとは言え、非常に美しく、優秀な楽曲たちになっています。
時代さえずれていれば、かなりの大ヒットを記録出来るポテンシャルのあるアルバムだと思います。

 

こんな僕と同様に、高い評価を下した国がありました。
それは日本です。
前作もオリコンで第6位20万枚の売り上げでしたが、今作はオリコンで第4位20万枚の売り上げを記録しています。
欧米では彼らの人気は定着しませんでしたが、日本では一層その人気が定着していくことになったのです。
確かに上記のとおり、日本人に受ける要素はたっぷりのアルバムだと思います。

 

不遇な時代に生み出されたわりに、楽曲の良さと、非常に完成度の高いバンドサウンドが聴ける点でおすすめのアルバムになっております。

チャート、セールス資料

1993年リリース

アーティスト:MR.BIG

3rdアルバム、BUMP AHEAD(バンプ・アヘッド)

ビルボード誌アルバムチャート第82位 

1stシングル WILD WORLD(ワイルド・ワールド) ビルボード誌シングルチャート第27位、同誌Mainstream Rockチャート第33位

2ndシングル AIN’T SEEN LOVE LIKE THAT(エイント・シーン・ラヴ・ライク・ザット) シングルチャート第83位