パンクと見せかけて、ニューウェイヴハードポップ BILLY IDOL - REBEL YELL(反逆のアイドル)
BILLY IDOL(ビリー・アイドル)との出会い
洋楽にはまっていた初期の頃、一人のアーティストがチャートに登場してきました。
その名もBILLY IDOL(ビリー・アイドル)。
まずは名前にアイドルってつける、っていったいどういう神経してるんだ、って思ったのが始まりですね。
で、そのシングルのタイトルがREBEL YELL(反逆のアイドル)・・・。
なんちゅう邦題をつけるんだ、っていうのが次の衝撃でした。
そして、PVを見ると、髪の毛を逆立て、右手には鉄鋲つきのリストバンド、口を歪めながらの絶唱、どれ一つとってもアイドル要素は皆無でありました。
完全にパンク系のいでたちやパフォーマンスに見えました。
これでアイドル???いやいや笑わせてくれるぜ、と思ったのが最初の出会いだったわけです。
BILLY IDOL(ビリー・アイドル)のそれまでの歩み
見た目どおり、彼はパンクバンド出身でした。
イギリス出身のビリーは、1970年代後期にGeneration X(ジェネレーションX)というバンドを結成し、主にヴォーカルとしてパフォーマンスしています。
もともと本名はWilliam Michael Albert Broadで、通常はWilliam Broad(ウィリアム・ブロード)と名乗っていました。
しかし、途中でBILLY IDOL(ビリー・アイドル)と名前を変えています。
このIDOL(アイドル)という語の由来は、学校の先生からIDLE(発音は同じアイドル、意味はサボっている、とかぶらぶらしている、といった形容詞)と呼ばれていたことのようです。
それで、最初はBILLY IDLEと名乗りたかったようです。
が、結局はIDOL(アイドル、意味は偶像視[崇拝]
これは、ジェネレーションXがパンクバンドでありながら、ルックスがよくてアイドル的な人気を集めていたことも関係しているかもしれません。
それにしても、よくそう名乗ったな、と僕は驚きですけど・・・。
1981年にはバンドは解散、ビリーはニューヨークに渡ります。
そこで自身のソロ活動を始めていくことになるのです。
ニューヨークでは、その後ビリーの片腕ギタリストともなる、Steve Stevens(スティーヴ・スティーヴンス)と出会い、共に活動を始めます。
パンクっぽいルックスのビリーと、グラムロックスタイルのスティーヴは見事なケミストリーを生み出していくことになります。
そして1982年にはKeith Forsey(キース・フォーシー)をプロデューサーとして迎えてデビューアルバム、BILLY IDOL(ビリー・アイドル)がリリースされます。
このアルバムからのシングル曲、WHITE WEDDING や DANCING WITH MYSELF が小ヒットします。
大ヒットにはならなかったものの、それらのPVがMTVにてヘヴィローテーションになるなど、大きな話題となります。
まさに、第二次ブリティッシュ・インヴェイジョン(イギリスのバンドによるアメリカ音楽市場への侵略)の時期にも重なり、アルバムは50万枚のヒットを記録します。
そうした、アメリカでも人気が高まりつつある中で僕は出会ったのでした。
ビリーはアルバム制作に当たり、レコード会社と、クリエイティヴ・コントロールを求めてバトルしています。
つまりは、自分で創作に関しての指導権を持ちたい、ということです。
そしてそのためにマスターテープを盗み出し、ついにコントロールする権利を獲得します。
しかし、キース・フォーシーによれば、実は盗み出したマスターテープは、本物ではなく、間違ったものだったそうです。
勝ち取ったビリーが、アーティストとして作品にどれほど真剣に向き合っているかを示す、いいエピソードになっていますね。
また、タイトルのREBEL YELLとは、ローリング・ストーンズの参加するパーティで飲まれていたウィスキーの名前のようです。
REBELは反抗する、反抗者などの意味、YELLは大声で叫ぶとか、叫び声などの意味があり、そうして考えると、この邦題も決して大外れではないのかな、とも思ってしまいました。
では今日は、1983年リリースのBILLY IDOL(ビリー・アイドル)の2ndアルバム、REBEL YELL(反逆のアイドル)をご紹介します。
REBEL YELL(反逆のアイドル)の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、REBEL YELL(反逆のアイドル)。
これこそ、僕が初めて彼の音楽に触れた作品です。
邦題を聞いただけでドン引きする要素は十分にあるわけですが、聞いてみると楽曲はかっこよすぎます。
このアルバムのほとんどはビリーとスティーヴの共作になっています。
イントロのシンセの音使いから、スリルあふれるものになっていますね。
楽曲自体は準疾走感のある、ハードロックになっています。
何がハードって、やはりビリーのヴォーカルが一番でしょう。
低音の魅力満載のAメロと、激烈シャウトのサビとのコントラストがたまりませんね。
さすがパンクロックバンドのフロントマンとして活躍していただけのことはあります。
そしてもう一つのハードな要素は、スティーヴのギタープレイです。
ギターのカッティングがかっこよく飾っていますし、ところどころで聞こえる効果音的なプレイもなかなかにハードです。
アーミングもめっちゃ揺らして、とにかく派手なところは思いっきりやっちゃってます。
ソロは痛快なロックンロールギターを聞かせてくれます。
PVではパンクっぽいいでたちのビリーのパフォーマンスが見れますが、楽曲としてはパンク要素はあまり感じられません。
ビリーのヴォーカルはそれっぽいのですが、曲はシンセが全体を彩る、ニューウェイヴ感覚のハードポップという感じですね。
その辺が、この時代のつまり80年代の音楽とマッチした作品になっているのだと思います。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第46位、同誌Mainstream Rockチャートで第9位を記録しています。
2曲目は、DAYTIME DRAMA(デイタイム・ドラマ)。
渋いベースラインにからむソリッドなギターリフがかっこいいイントロを作り出しています。
ベースは全編に渡ってグルーヴ感を生み出し、非常にアダルトな雰囲気を醸しだしています。
ビリーのヴォーカルは抑えた渋い声で、引き込まれて行きます。
スティーヴのギターは浮遊間たっぷりのエフェクトを掛けられて、ソロはもちろん、全編を妖しく彩っています。
ベースの効いた非常に気になる佳曲です。
3曲目は、EYES WITHOUT A FACE(アイズ)。
これは名曲ですね。
イントロのシンセの使い方が絶妙で、非常に気持ちよい始まりです。
歌も、ビリーの低音が優しく歌い上げてますし、メロディもとてもキャッチーなので、ポップスとしてとても聞きやすい楽曲になっています。
この曲でもベースがしっかり効いていて、非常に僕好みのプロダクションになっています。
そしてやはりこの曲のハイライトは、間奏のスティーヴのギターリフでしょう。
PVではショートヴァージョンになっていて短いのですが、アルバムではたっぷりかっこいいリフを聞けます。
ソリッドでシンプルなリフですが、軽く空間処理されていて、非常に印象的なフレーズになっています。
このポップな曲の中に混じるハードエッジなギターが、極めて効果的に楽曲のかっこよさを増しています。
とはいえサビでは、女性ヴォーカルもコーラスで加わって、全体としてソフトなサウンドになっています。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第4位、Mainstream Rockチャートで第5位を獲得しています。
4曲目は、BLUE HIGHWAY(ブルー・ハイウェイ)。
エレキのリフと、ビリーのシャウトから始まる、ノリノリの楽曲です。
ビリーの特徴の一つは、やはり低音ヴォイスの魅力でしょう。
疾走感ただよう楽曲で、メロディアスにサビを歌い上げています。
シンセもキラキラと合間を彩り、まさに80年代のサウンドを作り上げています。
アウトロでは、たっぷり1分ほど、スティーヴのロックンロールギタープレイが楽しめます。
5曲目は、FLESH FOR FANTASY(フレッシュ・フォー・ファンタジー)。
これもまたいい曲ですね。
イントロのギターリフと、リズム隊とのからみがまたたまらなくかっこいいです。
歪んだギターリフと、クリーンなカッティングが交互に効果的に用いられてます。
サビ前の、ビリーのヴォーカルに呼応して鳴らされるギターメロが秀逸で、そこからのサビへの流れが完璧ですね。
サビでの力強いヴォーカルと、そのバックで鳴っているエレキやシンセの美しい音色の対比がまた素晴らしいです。
スティーヴのエレキギターが、歪みからクリーンまで、様々な音色を引き出していて、彼のギタリストとしてのセンスの良さが強く感じられる楽曲になっています。
この曲は、3rdシングルとしてカットされ、シングルチャートで第29位、Mainstream Rockチャートで第8位を記録しています。
6曲目は、CATCH MY FALL(キャッチ・マイ・フォール)。
アルバム中この曲だけが、William Broad名義のビリー単独の楽曲となっています。
これもキャッチーで、80年代らしい楽曲ですね。
突然サックスが曲中を彩るのも、80年代ならではなのかもしれません。
ベースが、ジャーニーのドント・ストップ・ビリーヴィンを彷彿とさせる、なかなかのグルーヴを作り出しています。
この曲は4thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第50位、Mainstream Rockチャートで第24位を記録しています。
7曲目は、CRANK CALL(クランク・コール)。
この曲もハード目のギターサウンドがクールな楽曲です。
ハードなギターと、控えめなギターとの塩梅が絶妙です。
搾り出すビリーのヴォーカルが、シンセのきれいなバックの上で聞こえて、このコントラストがいい感じです。
この曲でも、スティーヴがギターソロは派手な演出を見せています。
8曲目は、(DO NOT) STAND IN THE SHADOWS(スタンド・イン・ザ・シャドー)。
ラスト前に、全開ロックンロールソングが登場です。
これもリズム隊がかっちり仕事をしていて、気分はノリノリ爽快気分です。
このソロもスティーヴが、ロックンロールギターを思いっきり披露しています。
もう、何も考えずにノレる、痛快ロックチューンです。
ラスト9曲目は、THE DEAD NEXT DOOR(ザ・デッド・ネクスト・ドア)。
キラキラしたシンセと、クリーンで空間処理のされたギターストロークの世界の中で、太い声で歌われていきます。
ビリーの声が安らかに歌い上げるのもまた魅力ではありますね。
アルバム全体の中では、ちょっと異質な静かな楽曲ですが、彼の存在感はしっかり保たれています。
まとめとおすすめポイント
1983年リリースのBILLY IDOL(ビリー・アイドル)の2ndアルバム、REBEL YELL(反逆のアイドル)はビルボード誌アルバムチャートで第6位、アメリカで200万枚のセールスとなりました。
元パンクバンドのヴォーカルが出したソロアルバム、ということで、パンクロックを期待する人は多かったかもしれませんが、1stアルバム同様、ニューウェイヴ感覚あふれる、ハードポップ作品になっています。
しかし、ただのポップアルバムとは大きく異なります。
やはりパンク出身ということもあってか、音は非常にヘヴィです。
それには、相棒のギタリスト、スティーヴ・スティーヴンスの影響は非常に大きいと言えるでしょう。
彼のハードエッジなギタープレイが加わることで、ポップアルバムなのに非常にかっこいい作風になっています。
また、ビートを刻むリズム隊の音も、ヘヴィな雰囲気を生み出しています。
とりわけ、ベース音が非常に効いていて、強烈なグルーヴを生み出しているところがとてもいいですね。
アルバムのプロダクションによって、こんなにかっこよく仕上がるのか、と驚かされます。
そして何より、ビリー本人の強烈なキャラクターが、80年代の音楽シーンで受けたのも間違いないでしょう。
ハード目のポップ作品なのに、彼のヴォーカルのみ、非常に強烈なパンクスピリットを放っています。
もちろん、見た目もパンクロッカーにしか見えませんし、口をひずませて歌う様子も只者ではありません。
なのに、曲は非常に聴きやすい80年代風の作品になっています。
この見た目と音楽のギャップも、多くの人の関心と興味を引いたのではないでしょうか。
彼はアイドル、と名乗りながら、それは日本で言うアイドルとは一線を画しています。
日本のアイドルは、他者から作り上げられたものがほとんどと言えるでしょう。
しかし、ビリーは自ら作詞作曲をし、作品作りにも真剣に向き合っています。
反逆のヒーローっぽい風を装いながら、実はマジなミュージシャンなのです。
邦題だけ聞くと、ちょいと引き気味になるのは致し方ありませんが、そこに目をつぶって聞ければ、なかなかに痛快なハードポップを楽しめるはずです。
チャート、セールス資料
1983年リリース
アーティスト:BILLY IDOL(ビリー・アイドル)
2ndアルバム、REBEL YELL(反逆のアイドル)
ビルボード誌アルバムチャート第6位 アメリカで200万枚のセールス
1stシングル REBEL YELL(反逆のアイドル) ビルボード誌シングルチャート第46位、同誌Mainstream Rockチャート第9位
2ndシングル EYES WITHOUT A FACE(アイズ) シングルチャート第4位、Mainstream Rockチャート第5位
3rdシングル FLESH FOR FANTASY(フレッシュ・フォー・ファンタジー) シングルチャート第29位、Mainstream Rockチャート第8位
4thシングル CATCH MY FALL(キャッチ・マイ・フォール) シングルチャート第50位、Mainstream Rockチャート第24位