洗練されたハードロックで世界的大ヒット FOREIGNER – 4
大きな変化と危機を乗り越えた4作目
1979年リリースのFOREIGNER(フォリナー)の3rdアルバム、HEAD GAMES(ヘッド・ゲームス)はビルボード誌アルバムチャートで第5位を記録、アメリカで今日までに500万枚を売上げました。
これで、3作続けての安定しての大ヒットとなり、フォリナーの人気は完全に確立されたと言ってもいいでしょう。
粒ぞろいのロックンロールは、多くのリスナーに受け入れられ、日本でもビッグセールスを記録していました。
そんなフォリナーを初めとして、ジャーニー、スティクス、REOスピードワゴンなどのバンドに対して、かの渋谷陽一先生は、産業ロックというレッテルを貼り付けたのでした。
まあ、その主張が当たっているかどうかは別として、それだけロックが巨大なビジネスとして儲かるものとなったのは間違いない事実と言えるでしょう。
当時すでにアルバムでミリオンセールスを連発していたフォリナーは、まさにその代表としても有名になってしまいます。
僕は、やはり売れるものを作ることも才能と思っているので、バカ売れしたから産業ロックというのはちょっと違うと思います。
それに、結局どんなミュージシャンも、それで食べていく(つまり売れる)ために音楽をやっているのがほとんどではないでしょうか。
なので、産業ロックというレッテル張りは基本的に僕は無視しています。
僕は、「自分が良い」と思った音楽を聴くだけです。
そして、フォリナーの音楽をやはり、良い、と思っているのです。
さて、3作続けての大ヒットを作った彼らは、さらに次の作品の制作を始めます。
ところが、ここで結成時のメンバーである、Ian McDonald(イアン・マクドナルド)とAl Greenwood(アル・グリーンウッド)がバンドから脱退してしまいます。
これは、結局バンドの主導権を確実に握りたいMick Jones(ミック・ジョーンズ)Lou Gramm(ルー・グラム)の二人との対立が原因だったようです。
脱退した二人は、このバンドを気に入っていたようですが、とりわけミックの、バンドを自分のコントロール下に置きたいという気持ちがこの決裂をもたらしてしまいました。
こうして音楽性の違いと、コミュニケーションの不足とで、ついに6人のメンバーは4人に減ってしまうのでした。
バンドは脱退した二人の補充を行なわず、セッションミュージシャンを雇い入れることにします。
そのうちの一人は、ソロとしてのキャリアを始める前の、Thomas Dolby(トーマス・ドルビー)というのがちょっと驚きですね。
彼は、このアルバム参加と後のツアー参加の報酬で、ソロデビューアルバムを作ったのだそうです。
さて、今回のアルバムは再びプロデューサーを変更して、あの、Robert John “Mutt” Lange(ロバート・ジョン・”マット”・ランジ)とミックの共同プロデュースとなっています。
今回のレコーディングには相当の時間をかけていますね。
ニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオで制作を開始した頃、同時期に同じスタジオでホール&オーツがアルバムを制作しています。
アルバム「プライヴェート・アイズ」を完成させ、ツアーに出て、帰ってきて次のアルバムの「H2O」の制作を始めた時もまだフォリナーはこのアルバムを製作中だった、というのは有名な逸話ですね。
当初、この4枚目のアルバムは、Silent Partnersというタイトルになる予定でした。
そして、それに合わせたアルバムジャケットを、今回はピンク・フロイドの狂気など数多くのジャケットをデザインしてきたヒプノシスに依頼します。
タイトルに合わせて出来上がったデザインは、ベッドに横たわっている、肩をはだけた若い男の頭上に迫ってくる双眼鏡の描かれた白黒写真でした。
メンバーはこれを、ちょっと同性愛っぽい、と感じて却下しました。
前回の3rdアルバムでは、アルバムジャケットでケチがついてセールスもダウンしたので、これは正しい決断だったと思いますね。
で、カバーを変更すると共にアルバムのタイトルも「4」に変えられました。
これは、4枚目のアルバム、という意味と同時に、6人から4人にメンバーが変わった新生フォリナーの意味合いも含まれているようです。
こうして新たな4人で、そして新しいプロデューサー”マット”・ランジと共に長時間をかけて緻密にアルバムは作り上げられました。
フォリナーにとって80年代に入って初のアルバムは、時代に合わせて洗練され、そしてよりハードエッジな魅力も加わった作品としてリリースされます。
では、今日は1981年リリースの、FOREIGNER(フォリナー)の4thアルバム、「4」をご紹介します。
「4」の楽曲紹介
オープニングを飾るのは、NIGHT LIFE(ナイト・ライフ)。
ミックとルーの共作の、いきなりハードなフォリナー的ロックンロール炸裂です。
ついにこのアルバムでハードロックへのシフトが完成を見たとも言われています。
それもうなずける、痛快でハードエッジな、そこにシンセがきらめく80年代的サウンドが確立したことをオープニングで主張しています。
ドラムの音が、やはり80年代に入って変わりましたね。
よく言えば、クリアで痛快なのですが、悪く言えば多くのバンドで同じような音がして聞こえてしまう音です。
でも、これを80年代の初期に聞けば絶対にかっこよかったと思われますね。
キャッチーでノリが良く、またハードエッジに洗練されたロックンロールでアルバムは始まります。
この曲はシングルカットはされていませんが、ラジオでのエアプレイにより、ビルボード誌Mainstream Rockチャートで第14位を記録しています。
2曲目は、 JUKE BOX HERO(ジューク・ボックス・ヒーロー)。
これも二人の共作で、非常に熱くかっこいいハードロックになってます。
ミックはこの曲について、アリーナの外の雨の中、5時間待っていた実在のファンからインスパイアされたと言っています。
そのファンの熱心さに打たれて、バックステージに招いたそうです。
また、ルーは、ソールドアウトになったジミヘンのショーの会場の外に立っている彼自身を描いたと言っています。
いずれにしてもスターダムを夢見るロック少年について歌った熱い歌であることに間違いありません。
静かだけど熱い気持ちを抑えるAメロから、一気にブレイクするBメロ、サビ、と非常に展開がかっこよく熱い楽曲ですね。
イントロは、いったい何が始まるのか期待を持たせる緊張感が持たせてあり、後に切り込んでくる鋭いギターリフがまた超絶にかっこいいです。
ソロも、ミックがなかなか頑張ってロックギターソロを長尺で弾ききっています。
この変わった展開は、プロデューサー”マット”・ランジの助けで二つの曲を組み合わせることで可能になったようです。
単体で2曲出来るよりも、強弱の共存する印象深い楽曲が出来たと思います。
この曲も、ハードロックにシフトしたフォリナーを印象付ける楽曲の一つと言えるでしょう。
この曲はアルバムからの3rdシングルとしてカットされ、ビルボード誌シングルチャートで第26位、その半年前にはMainstream Rockチャートで第3位を記録しています。
3曲目は、BREAK IT UP(ブレーク・イット・アップ)。
ミックによる、緊張感あふれるクールなロックです。
これも、COLD AS ICE(つめたいお前)系のマイナー調で哀愁感たっぷりの名曲ですね。
メロディアスでバラード調の雰囲気にハード系のロックが融合されてこれまたかっこいい楽曲になってます。
イントロの美しいシンセメロから弾きこまれ、歌が始まると共に一気にバンドっぽく展開していくさまにあっという間にノックアウトされます。
四分音符で奏でるマイナー調のキーボードコードの使い方がいつもどおり絶妙です。
サビでは八分音符に変わったキーボードコードがさらに楽曲を盛り立ててます。
ルーの熱唱もさることながら、ミックの優れたメロディメイカーぶりもしっかり味わえます。
メロディックハードロックは、確かにこのアルバムで完成したと、この曲でも感じられます。
この曲は4thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第26位を記録しています。
4曲目は、WAITING FOR A GIRL LIKE YOU(ガール・ライク・ユー)。
ルーとミックによる共作の、フォリナーの代表作と言えるパワーバラードです。
この曲はシンセサウンドが非常に独特で印象的で美しいですが、これはトーマス・ドルビーによるものです。
やはりこの音は強烈ですよね。
曲自体は、メロディはいいのですが、起伏が少なくちょっと単調な気もします。
が、大ヒットにつながったのは、やはりこの全体の雰囲気の勝利ではないでしょうか。
80年代のシンセ全盛のムーヴメントの先陣を切ったかのような素晴らしい音を生み出しています。
トーマス・ドルビーの先鋭的な音作りと、”マット”・ランジによる絶妙なプロダクションが、名作を生み出したと思います。
この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで最高位第2位(10週連続)、Mainstream RockチャートでNo.1、Adult Contemporaryチャートで第5位を記録しました。
この曲がシングルチャートで1位になるのを10週間にわたって妨げたのは、最初の9週はオリヴィア・ニュートン=ジョンのフィジカルで、最後の1週はダリル・ホール&ジョン・オーツのアイ・キャント・ゴー・フォー・ザットです。
オリヴィアがついに力尽きたと思いきや、ホール&オーツが一気にかっさらった感じになってます。
こんなこともあって、この曲は悲劇の楽曲としても有名になってしまいましたね。
1位は取れなかったわけですが、曲としての印象はリスナーたちに強烈に残ったと思います。、
それと同時に、バラードの美しいフォリナーという印象も残ったため、後の音楽性での意見の相違につながっていく、という皮肉な大ヒットとも言えます。
5曲目は、LUANNE(ルアンヌ)。
A面最後は、これも二人の共作の軽快なロックンロールです。
アメリカンロッカーのジョン・フォガティによって書かれた曲と言ってもおかしくないくらい爽快なアメリカンロックンロール然としています。
前曲のパワーバラードではなく、この曲でA面が終わるところは好感が持てますね。
シンプルなロックンロールリフに、ちょっとだけ色をつけるシンセが気持ちいいです。
フォリナーにしては希少なメジャーキーのロックでA面は終わります。
この曲は5thシングルとしてカットされ、シングルチャートで第75位を記録しています。
6曲目は、URGENT(アージェント)。
ミックによる楽曲で、アルバムの先行シングルとしてフォリナーの新境地を開いた曲とも言えるでしょう。
イントロの半音ズレるギターリフが、これまた印象的ですね。
そこにシンセが加わり、フォリナーのこれまでにない雰囲気を醸しだしています。
トーマス・ドルビーによるシンセが中心になって、少しダンサブルなイメージもあります。
前述のフィジカルが大ヒットしたように、当時はダンスミュージックが流行ってましたので、うまいことその雰囲気を取り入れてますね。
また、途中で加わるサックスも、なかなか強い印象を残してます。
いろいろと、フォリナーの音楽性に幅が加わった名曲だと思います。
この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、シングルチャートで第4位、Mainstream Rockチャートで4週連続No.1、Dance Club Songsチャートで第32位を記録しています。
7曲目は、I’M GONNA WIN(アイム・ゴナ・ウィン)。
ミックによる楽曲で、じわじわ盛り上がるロックソングです。
始まりはとても地味で暗めではありますが、少しづつギターリフは厚みを増していきます。
シンセも加わり始め、ドラムも加わっていくと次第に盛り上がっていきます。
サビのルーの熱唱とその後のギターソロが熱いです。
間奏の盛り上がり方も、その後のギターソロも、けっこうドラマティックです。
ラストはコーラスも多重で加わり、一層の盛り上げを見せます。
全編ダークな雰囲気で満ちてますが、悪くはないと思います。
8曲目は、WOMAN IN BLACK(ウーマン・イン・ブラック)。
これもミック単独での楽曲で、とてもかっこいいロック曲です。
やはり全体を通してのギターリフが、シンプルでありながら、非常に巧みに溶け込んでます。
リフマスターミックの面目躍如ですね。
曲全体のギターリフが初期のヴァン・ヘイレンの影響を受けてる気もします。
全体として渋かっこいい名曲だと思います。
9曲目は、GIRL ON THE MOON(ガール・オン・ザ・ムーン)。
ルー、ミックの二人の共作の、アルバムで2曲目のパワーバラードです。
これまたうっとりするような名曲ですね。
全体の雰囲気が素晴らしいです。
柔らかくて神秘的な雰囲気がたまりません。
アルペジオはディレイを掛けて飽くまでも美しく、ギターソロもまた空間処理されてより美しくメロディアスに仕上げてあります。
途中で加わるさまざまなシンセサウンドが、当時のかなりの先端をいってたんではないでしょうか。
そしてこんなバラードでも、ルーのヴォーカルも見事にはまってますね。
ガール・ライク・ユーに匹敵するような、アダルトオリエンティッドな名曲だと思います。
10曲目は、DON’T LET GO(ドント・レット・ゴー)。
ラストは二人の共作で、フォリナーらしいシンプルなロックです。
80年代に入ったフォリナーサウンドは完全に確立されています。
シンプルなギターリフ、程よいテンポでぐんぐん進むノリのよさ。
適度に彩りを加えるシンセサウンド、ルーの熱唱。
安定のフォリナー節でアルバムは幕を下ろします。
まとめとおすすめポイント
今日は1981年リリースの、FOREIGNER(フォリナー)の4thアルバム、「4」は、ビルボード誌アルバムチャートで10週連続No.1を獲得しました。
また、翌年のアルバム年間チャートでは第3位を記録してます。
そしてアメリカだけで今日までに700万枚以上を売上げて、世界ではトータル1500万枚を売上げたと言われています。
今回、ついにオリジナルメンバーから二人脱退し、4人メンバーとなるというバンドの危機の中作り上げられたアルバムとなりました。
しかし、主要メンバーのルーとミックにとっては、好きなように作れたアルバムだったのではないでしょうか。
もともと前の3作も、歌メロのよさ、キャッチーさは十分でしたが、今回はそれに輪をかけてプロダクションが大きく向上していると感じられます。
そうなった大きな理由は、プロデューサーの”マット”・ランジの存在だったのではないでしょうか。
もともとAC/DCなどのアルバムをプロデュースしていた彼の手腕により、80年代サウンドのハードロックが確立したのではないか、と思います。
そんな彼と共に、今回は非常に長い時間を掛けてレコーディングを行なっています。
そのお陰で、非常に洗練されたハードロックが完成したと思いますね。
それに加えて脱退したイアンとアルの二人の補充はせずに、セッションミュージシャンを雇ってのレコーディングとなります。
その中には、後にソロキャリアを始めることとなる、トーマス・ドルビーもいました。
彼がいなかったら、アージェントやガール・ライク・ユーの、あの完成されたサウンドには達していなかったかもしれません。
4人になったことで、そのようにサウンドに幅を持たせることができ、優れたアルバムへと昇華していったのではないかと僕は思います。
初期3部作と比べると、一気に洗練され、よりハードなエッジの効いたサウンドが確立しました。
しかし、いいことばかりではありません。
この作品が生み出したガール・ライク・ユーの大ヒットは、皮肉にもフォリナー内にトラブルを引き起こしていくことになるのです。
こんなメローで美しいバラードは売れることに気付いたミックは、次作品以降もパワーバラード系の曲を量産していきます。
一方、ソリッドでハードなロックを歌いたいルーは、そんなミックと意見の相違で仲たがいしていくことになるのです。
そういう意味では、この素晴らしい名作がもしかしたら彼らのピークだったのかもしれません。
ミックとルーの二人の才能がほとばしるこの作品は、フォリナーとしての魅力にあふれています。
バンドの危機を乗り越えて作られた「4」はやはり80年代バンドサウンドの一つのスタイルを打ち出した名作と言って過言ではないでしょう。
チャート、セールス資料
1981年リリース
アーティスト:FOREIGNER(フォリナー)
4thアルバム、4
ビルボード誌アルバムチャート10週連続No.1 アメリカで700万枚のセールス、世界で1500万枚
1stシングル URGENT(アージェント) ビルボード誌シングルチャート第4位、Mainstream Rockチャート4週連続No.1、Dance Club Songsチャート第32位
2ndシングル WAITING FOR A GIRL LIKE YOU(ガール・ライク・ユー) シングルチャート10週連続第2位、Mainstream RockチャートNo.1、Adult Contemporaryチャート第5位
3rdシングル JUKE BOX HERO(ジューク・ボックス・ヒーロー) シングルチャート第26位、Mainstream Rockチャート第3位
4thシングル BREAK IT UP(ブレーク・イット・アップ) シングルチャート第26位
5thシングル LUANNE(ルアンヌ) シングルチャート第75位