アーティスティックでゴージャス もう一つのサイドプロジェクト  ARCADIA(アーケイディア) – SO RED THE ROSE(情熱の赤い薔薇)

デュラン・デュランからのもう一つのサイドプロジェクト





1983年リリースの、DURAN DURAN(デュラン・デュラン)の3rdアルバム、SEVEN AND THE RAGGED TIGER(セヴン&ザ・ラグド・タイガー)とそれに続く世界ツアーがひとしきり終わると、メンバーは二つに分かれてサイドプロジェクトを立ち上げます。
その一つは、1985年にリリースされたTHE POWER STATION(パワー・ステーション)の1stアルバム、THE POWER STATION(ザ・パワー・ステーション)です。
Andy Taylor(アンディ・テイラー)とJohn Taylor(ジョン・テイラー)を中心に結成されたそのアルバムは、デュラン・デュランではほぼほぼ聞くことのできない、生々しいワイルドでファンキーなハードロックを聞かせてくれて驚かされました。

 

そして、今日紹介するのは、残りの3人、Simon Le Bon(サイモン・ル・ボン)、Nick Rhodes(ニック・ローズ)、Roger Taylor(ロジャー・テイラー)が結成した、ARCADIA(アーケイディア)です。

 

当時、先にパワー・ステーションの方が大ヒットしてしまっていて、なかなか情報が来なかったのを思い出されます。
最初はアルカディア・プロジェクトって言われていた記憶があるのですが、最終的に届いたときは英語読みでアーケイディア、という表記になっていました。
このバンド名は、17世紀に活躍した画家のニコラ・プッサンによる、Et in Arcadia egoという作品からインスパイアされて名付けられています。

 

最初にシングルのELECTION DAY(エレクション・デイ)が届いたときには、ほぼほぼデュラン・デュランじゃん、って思いました。
やはりバンドのフロントマンはヴォーカルですね。
サイモンがいるだけあって、本家デュラン・デュランの音楽を正統に継承している感じがします。

 

とはいえ、アルバムを聴いてみると、やはり通常運行とは大きく異なり、さまざまなゲストの参加により、より耽美でシュールな世界観を生み出していることに気付けました。
プロデューサーはデュラン・デュランの3rdアルバムで共同プロデュースをしたAlex Sadkin(アレックス・サドキン)と今回もタッグを組んでいます。
というわけで、基本、本家の方向性を保ちつつも、さらにアーティスティックな路線を深めていった作品になっています。

 

さまざまなゲストとしては、ギタリストとしてピンク・フロイドの David Gilmour(デヴィッド・ギルモア)や元一風堂の土屋昌巳などが参加しています。
また、ハービー・ハンコック、スティングなど、このビッグなプロジェクトにはやはりビッグな顔ぶれが揃っています。

 

では今日は、1985年リリースのARCADIA(アーケイディア)の1stアルバム、SO RED THE ROSE(情熱の赤い薔薇)をご紹介します。

SO RED THE ROSE(情熱の赤い薔薇)の楽曲紹介

オープニングを飾るのは、ELECTION DAY(エレクション・デイ)。

 

この曲は、アーケイディアのシングルとして登場してきたわけですが、けっこう衝撃的でしたね。
先行のプロジェクト、パワーステーションが、あんな感じでどちらかというとわかりやすいファンクロックで攻めてきたのと非常に対照的です。
元々のデュラン・デュランっぽい作風ではありますが、サイモンのヴォーカルはより粘着質を増しています。
ちょっと慣れるのに時間がかかったのが正直なところです。

 

しかし、僕がデュラン・デュランにはまったと同じく、やっぱりこの声とサウンドはクセになりますね。
何度も聴いてると、次第に頭から離れなくなるという中毒性の高い楽曲として仕上がっていると思います。

 

Roxy Music(ロキシー・ミュージック)のAndy Mackay(アンディ・マッケイ)のサクソフォンが、彼等のシンセポップに深みを与えてます。
また、ギタリストとしては、元一風堂の土屋昌巳が参加しています。
彼の、個性的なギターカッティングがうっすらと効果的ですね。
いろいろうわさを統合してみると、土屋昌巳はこのアルバムで実質的にはサウンドプロデューサーとして大きな役割を果たしているようです。
中盤では、スーパーモデルのGrace Jones(グレイス・ジョーンズ)がトークで参加して話題ともなっています。

 

名曲かどうか、というとちょっと保証しかねますが、聞き込むうちに病みつきになる中毒性は間違いなく持っていると思います。
強烈な個性で、耽美なる世界観を表現した、異端の名曲と言えるかもしれません。

 

この曲はアルバムの先行シングルとしてリリースされ、ビルボード誌シングルチャートで第6位、同誌Dance Club Songsチャートでは第29位を記録しています。

 

2曲目は、KEEP ME IN THE DARK(キープ・ミー・イン・ザ・ダーク)。

 

独特な雰囲気で始まりますが、すぐに軽快なギターのリフでポップな雰囲気に変わります。
これはデュラン・デュランのアルバムに入っていても違和感がない気がしますね。

 

ただ、やはりシンセの使い方などは独特ですし、軽くミュートの入ったギターリフは心地よく響いています。
この辺もニックと土屋さん主導の音作りが感じられます。

 

キャッチーな雰囲気ではありますが、サイモンのねちっこいヴォーカルでやはりアーケイディアオリジナルの楽曲になっていると思います。

 

3曲目は、GOODBYE IS FOREVER(グッドバイ・イズ・フォーエヴァー)。

 

これは、パワーステーションとはまた異なる形でのファンキーミュージックです。
やはり土屋さんの絶妙なギタープレイが独特のノリを生み出してますね。

 

これもアルバム中ではキャッチーな楽曲になっていて、シングルカットもされています。
サイモンのねちっこいヴォーカルと、ゴージャスなシンセ、ファンキーなギターの絡みが絶妙です。

 

この曲は2ndシングルとしてカットされ、シングルチャートで第33位を記録しています。

 

4曲目は、THE FLAME(ザ・フレイム)。

 

これもデュラン・デュランの作品っぽい、ダンサブルシンセポップ曲です。

 

取り立てて良いわけではありませんが、安心して楽しめる楽曲です。
やはりサイモンの声は独特で、はまりますね。

 

5曲目は、MISSING(ミッシング)。

アンビエントミュージック(環境音楽)っぽい優しく広がる音像の中で、サイモンが静かに歌い上げてます。
ヨーロピアンな雰囲気も感じられ、独特の世界観を保っています。
こんなスローテンポで聴くと、サイモンのヴォーカリストとしての力量を感じられます。

 

6曲目は、ROSE ARCANA(ローズ・アーケイナ)。

 

前曲からの流れからのインスト曲です。
わずか50秒で、彼等の世界観を説明している、のでしょうか??

 

7曲目は、THE PROMISE(ザ・プロミス)。

 

7分30秒ほどの大作です。
この曲にはデヴィッド・ギルモアが参加しています。
イントロのあの浮遊感あるギターソロメロディが彼のプレイでしょう。

 

また、バックヴォーカルでスティングが参加しています。
サイモン・ル・ボンのヴォーカルに絡んでいい感じです。

 

ベースにはジャズ・ベーシストのMark Egan(マーク・イーガン)が参加し、フレットレス・ベースによる滑らかでグルーヴィーなノリを演出しています。
また、キーボードにはHerbie Hancock(ハービー・ハンコック)が参加するなど、超豪華な楽曲となっています。

 

シングル向けのいい曲で、イギリスでは2ndシングルとしてカットされています。

 

8曲目は、EL DIABLO(エル・ディアブロ)。

 

イントロでは哀愁あるヴァイオリンが聞けます。
これは、土屋さんによるプレイのようで、彼の多才さがうかがえます。
また、スパニッシュな雰囲気のあるオカリナによるイントロが気持ちよいです。
また、ギターソロもスパニッシュ風で、何となく南米への郷愁を感じさせてくれる良曲です。

 

その雰囲気のためか、スペインでのみシングルカットされています。

 

ラスト9曲目は、LADY ICE(レディ・アイス)。

 

これも7分30秒を超える大作です。

 

アルバムの全体のイメージがしっかりとつまったバラードです。
独特の雰囲気のある音の散りばめられたイントロからアーケイディアの世界観が全開です。

 

ゴージャスなオーケストラルヒットも使い、あの耽美な世界が描き出されてます。
そして、やはりこの世界観には、あの甘ったるいサイモンのヴォーカルがぴったりだと思います。
一度ハマれば逃れられない、独特の存在感を放ちつつ、アルバムはエンディングを迎えます。

まとめとおすすめポイント

1985年リリースのARCADIA(アーケイディア)の1stアルバム、SO RED THE ROSE(情熱の赤い薔薇)は、ビルボード誌アルバムチャートで第23位、アメリカで100万枚を売上げるヒットとなりました。

 

恐らく、ライバルのザ・パワー・ステーションに比べると、やはりとっつきにくい音楽性を持っていると個人的には思います。
あの、第一弾シングルのエレクション・デイを聞いたとき、本家より強烈な個性を放ってましたからね。

 

ところが、いったんはまると強烈に心地よくなっていくのが最大の特徴と言えるかもしれません。
まさに、僕が最初デュラン・デュランがとっつきにくかったのと同じで、あのサイモンの独特のねちっこいヴォーカルを愛せるかどうかでこのアルバムの評価は大きく二分されることでしょう。

 

ポップでキャッチーなシングルヒットを重ねたザ・パワー・ステーションと比べると、やはり存在感は薄いのが個人的な印象です。
しかし、リピート回数で言えば、こっちのほうが噛めば噛むほど味の出るスルメ的な要素があったとも感じています。
本家のようなポップ要素は少ないですが、実はポップな要素も楽曲に潜んでいるといった巧妙なアルバムになっていると思います。

 

まあ、結局目立つのはサイモン・ル・ボンの強烈な個性のあるヴォーカルということになると思います。
それに加えて、この独特の世界観を生み出した中心となったのがニック・ローズでしょう。
耽美で中世のヨーロピアンテイストのかかった、アーティスティックで、ある意味マニアックなアルバムなのに、ちゃんとヒットできたのは、やはり当時いかにデュラン・デュランの人気が群を抜いていたかの証明になると思います。

 

また土屋昌巳を始めとする豪華なアーティスト陣も、当時の彼等の人気を証明しているものの一つだと思います。
デヴィッド・ギルモア、スティング、ハービー・ハンコックなどの一流ミュージシャンたちからも一目置かれていたということでしょう。

 

このアルバムリリース後、映画Playing for Keeps(邦題:高卒物語)のサウンドトラックに、Say the Wordという楽曲を提供してバンドとしては活動は終わります。
結局、テレビ出演などは行なってますが、ライヴツアーは行なわず、再びデュラン・デュランとしての活動に入っていきます。
が、このアルバムリリース後に、ドラマーのロジャー・テイラーはバンドをいったん脱退しました。
また、ザ・パワー・ステーション側のアンディ・テイラーもバンドを離れていきます。

 

こうして人気絶頂だったデュラン・デュランを二分したサイドプロジェクトにより、完全にバンドの求心力は低下してしまいました。
ニック・ローズは、アーケイディアの活動に満足しているものの、これらのサイドプロジェクトはバンドにとって商業的な自殺行為だったと振り返っています。
この後リリースされるデュラン・デュランのアルバムは、どれもかつてのような大ヒット作にはならなかったのです。

 

とはいえ、僕はこれらのプロジェクトについては高く評価しています。
それぞれ、非常に個性の違う二つのバンドとなり、優れたアルバムを生み出したからです。
アーケイディアも、多分そのタイミングだったからこその、アーティスティックな作品になったのではないでしょうか。
人気絶頂だったからこそ作り得た、超マニアックなアルバムとして完成していると思います。

 

多種多様な音楽が現われた80年代の中でも、独特で異端の輝きを放つのがこのアルバムだと思います。
何度か聴くと耳から離れなくなるねちっこいそのサウンドは、今でも脳内でねちっこく再生され続けています。
80年代ポップスの中でもかなりアート寄りのこのアルバムも、欠かせない作品の一つと言ってよいでしょう。

チャート、セールス資料

1985年リリース

アーティスト:ARCADIA(アーケイディア)

1stアルバム、SO RED THE ROSE(情熱の赤い薔薇)

ビルボード誌アルバムチャート第23位 アメリカで100万枚のセールス

1stシングル ELECTION DAY(エレクション・デイ) ビルボード誌シングルチャート第6位、Dance Club Songsチャート第29位

2ndシングル GOODBYE IS FOREVER(グッドバイ・イズ・フォーエヴァー) シングルチャート第33位